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過去の遺作置き場
2024年03月19日 (Tue)
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2003年07月27日 (Sun)
8月16日



あれから、どれぐらいの時間が経ったんだろう。
カーテンの隙間から窓の外を覗くと、うっすらと空が明るくなりかけている。
もう朝ね・・・。
身体を起こして隣を見ると、南が北川君の眠るベッドに寄りかかって眠っていた。
ずっと北川君の事診てたものね・・・さすがに疲れて眠っちゃったか。

「ふあ・・・」

思わず欠伸が出てしまう。
私も結局寝てないものね・・・流石に眠いわ。
でも、これだけ待ってても北川君は戻ってこない。
まさか・・・うぅん、そんな事あるわけないわよね・・・。
だって、北川君だもの。
そんな簡単に死んじゃうわけがない。
私は未だ静かに眠る北川君の顔を見ながらそう思った。

ふぅ・・・少し眠気覚ましにコーヒーでも淹れてこよう・・・。
私は部屋を出ると、真っ直ぐにキッチンへと向かう。
勝手知ったる何とやら、ね。
あやめさんに家事教える為に何度もこの家に足を運んで・・・もうすっかり覚えちゃった。
コーヒー豆はここ、カップがこっちでミルがここに。
そう言えば、あやめさん初めてコーヒー豆挽いた時、凄く驚いてたっけ・・・。
・・・って、何感傷に浸ってるのよ、私は。
まだあやめさんと北川君が戻ってこないと決まったわけじゃないんだから・・・。
私は頭をブンブンと振ると、コーヒーを淹れたカップを持って部屋へと戻った。



ちょうど目が覚めた南と二人でコーヒーを飲む。
いつもはミルクや砂糖を沢山入れるんだけど、今日は何も入れずにブラックで飲んだ。
何となく・・・そう言う気分だったから。
南も少し苦そうにしながらも、特に文句も言わずに黙ってコーヒーを啜っている。
多分・・・私と同じ気分なのかも知れない。

「北川さん・・・戻ってこないですね・・・」

ふと、南がポツリと呟いた。
私は顔を上げて南の方に視線を向ける。

「もしかしてこのまま・・・ずっと戻ってこないのかな・・・」

辛そうな顔で言葉を続ける南。
私はそんな南を元気付ける。

「南、あなたがそんな事でどうするの! 北川君は必ず戻ってくるわ。
 だから私達がそれを信じてあげなきゃ・・・・・ね?」
「そう・・・・・・ですよね、私達が信じてあげないとダメですよね!」

涙の滲んだ目を擦ると、南はそう言って微笑んだ。

「北川君・・・・・」
「北川さん・・・・・」

二人で北川君の名前を呼ぶ。
名前を呼んだからって戻ってくるかは判らない。
でも、私達は信じてるから!
北川君と・・・・・そしてあやめさんが!!

「北川さん、あやめさん!」
「二人ともお願い、戻ってきて・・・・・・!」

二人でそうやって名前を呼んだ時だった。

パァッ・・・・!


「え?!」
「・・・な、何?」

突然、部屋の中が光で満たされる。
真上から降り注ぐその光は、どこか暖かくて気持ち良い・・・。
でもこれってどこかで・・・。
そう思った瞬間、突然光の中から一人の女性の姿が現れた。
長くて澄んだ黒い髪にあの見慣れた和服・・・あやめさん?!
眩しい光の中目を凝らすと、それは間違いなくあやめさんだった。
やがて、あやめさんが北川君の眠る横にフワリと降り立つとゆっくりと光が収まっていく。
そしてやがて光は完全に消え去った。

「「・・・・・・はっ」」

呆然とその様子をただ見守っていた私と南だったけど、すぐに北川君とあやめさんの元に駆け寄る。

「あやめさん、大丈夫?!」

あやめさんの身体を掴んで軽く揺さぶる。
特に反応は・・・って、え?!
私は改めて、あやめさんの身体に触れた。
・・・ちゃんと感触がある。
前みたいにすり抜けたりせずに、ちゃんと触れる!

「み、南」
「は、はい。これってどう言う・・・」

お互いに声が震えている。
だって、あやめさんに触れるんだよ?
触れるって事は実体があるって事でそれはつまり・・・。

私はすかさずあやめさんの手を取って脈を取ってみる。

トクン、トクン、トクン・・・。
心臓に耳を当てても同じ音が聞こえる。

「間違いなく、生きた人間だよ・・・前の幽霊のあやめさんなんかじゃなく!」

信じられない事だけど、あやめさんは完全に実体化していた。
一体、向こうで何があったのかしら・・・。


「あ、そう言えば北川君は?」

あやめさんの事に気が行ってて、北川君の事をすっかり忘れてた。
あやめさんが戻ってきたのなら、北川君も目が覚めても良いはず・・・。
私が北川君の方に視線を移すと、微かに北川君の瞼が動いた。

「う・・・うぅん?」

そんな声と共に、北川君が目を覚ました。

「え~と・・・あれ? 俺どうしたんだっけ・・・」

キョロキョロと辺りを見回す北川君。
何も覚えてないのかしら・・・。

「とりあえず、北川君・・・目が覚めたなら、この状況を説明してほしいんだけど」
「あ? この状況って・・・?」

よく状況理解してないみたいね。
まぁ、仕方ないけど。

「あやめさんが実体化しちゃってるのよ、完全な人間になってるの。これってどう言うこと?」
「・・・・・・・・へ?」

突然、ガバッと北川君が起き上がる。

「きゃっ」
「ちょっと、北川君乱暴よ?」
「大丈夫ですわ、祐子さん」

はっきりした声であやめさんが答えた。
で、北川君の方はと言うと・・・・・・あ、固まってる。

「とにかく・・・・・あやめさんはまだ人間になったばかりなんだから、もっと優しくね?」

私の声を聞いて、恐る恐る横を向く北川君。
そして、隣に居たあやめさんと目が合った。

「・・・・・・・・潤様、わたくし一体どうしたんでしょう・・・・・・・・?」

よく判ってないような感じで、少し戸惑いげな表情を浮かべるあやめさん。
一方の北川君も何が起こったのかよく判っていない顔をしていた。

「北川さん、何が起こったの?
 突然、部屋に光が差して中からあやめさんが出てきて・・・・・・そして人間になってるんだもの。
 びっくりしちゃった!」

南が少し興奮気味に説明する。
でも南の気持ちもわかる。
突然、こんなことになったら・・・・・ねぇ?

「お、俺・・・・・・・強引にあの世からあやめさんを連れてきちゃったのか・・・・・?」
「え? それってどう言う・・・・・・・・」
「北川さん・・・・・?」
「潤様・・・・・・・?」
「よっしゃあーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

突然、ガッツポーズをして大声を上げる北川君。
私も南もあやめさんもびっくりしてる。
でも、そんなのなんかお構いなしに北川君は嬉しそうにあやめさんを抱き上げた。

「ははは、奇跡だよ! 愛は奇跡を起こすって決まってるんだよ!!」
「・・・・・・まぁ、潤様・・・・・・・」

私達の疑問に答えるように、北川君はそう言った。
その言葉に反応してあやめさんが頬染めて、そして笑顔になる。

「私達が・・・・・二人を呼んだからかしらね。北川君とあやめさんを・・・・・」
「そう言えば・・・・・誰かに呼ばれてる感覚があったっけ・・・・・」
「それで帰ってこれたのよね・・・・・・・あやめさんは人間になって・・・・・・」

そう言って、南が泣き始めた。
私も少し目頭が熱くなってきてるのがわかる。

「これからは、ずっとあやめさんと一緒に居られるわね」

そう、あやめさんが消える心配なんてもうない。
だって、あやめさんは人間になったんだから。
これからは、ずっとずっと・・・・・・北川君の傍に居られる。

「・・・・・・・はい、ただいま帰りましたわ・・・・・・・・」

そう言って、あやめさんはにっこりと微笑んだ。


おかえりなさい・・・・・・あやめさん!




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