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過去の遺作置き場
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2002年10月11日 (Fri)
8月15日 その1



ピンポ~ン。

いつものように玄関のチャイムを鳴らす。
あやめさんが来てから、随分頻繁に北川君の家に来るようになっちゃったわね・・・。
この家もすっかり見慣れちゃったわ。

「どなた・・・ですの?」

そんな事を考えながら待っていると、中からあやめさんの声が聞こえてきた。
相手が誰だか分からない為か、どこと無く戸惑っているような声。

「あやめさん? 私よ、祐子」
「まぁ、祐子さんですか? 今お開けしますのでしばらくお待ちくださいね」

ガチャリ。

あやめさんの声が聞こえてくると同時に鍵の開く音が聞こえてきた。
私は、それを確認するとノブに手をかけて扉を開く。

「こんばんわ、あやめさん」
「祐子さん、こんばんわ。今日はどうされたんですの?」
「うん、それなんだけど・・・」

私はそこで言葉を濁して、奥の階段の上の方を見やる。
特に北川君が降りてくる様子はない。

「あやめさん、北川君は・・・寝てるの?」
「えぇ、潤様でしたら今はお休み中ですわ。潤様に御用ですの?」
「うぅん、違うの。今日は・・・あやめさんに用があって来たから・・・」
「私(わたくし) に・・・ですか?」

不思議そうな顔をするあやめさんに、私はコクンと頷く。

「とりあえず、散歩でもしながら話したいんだけど・・・今、大丈夫?」
「えぇ・・・大丈夫ですけど・・・」

そう言いながら、2階を気にするあやめさん。
多分北川君を一人にするのが心配なんだろうけど・・・。

「北川君なら多分大丈夫よ。それに、私達の話し声で起こしちゃったら悪いでしょ?」
「・・・それもそうですわね。それではお供いたしますわ」

そう言ってあやめさんはにっこりと微笑んだ。
・・・こんな笑顔見せられると決心鈍りそう・・・。







あやめさんと二人、並んで夜道を歩く。
空を見上げると、綺麗な月が私達を照らしていた。

そのまま無言で歩き続ける私達。
何となく・・・話しかけるきっかけが掴めない。
あやめさんも黙ってついてきてるだけだし・・・。
どうやって切り出そう・・・。


「あ・・・」

私が色々悩んでいると、あやめさんが小さく声を漏らした。
私が顔を上げて見回すと、私達はいつの間にか公園に来ていた。
ここ・・・北川君が言ってた、あやめさんと初めて会った公園・・・よね。
無意識の内にここに来ちゃったのかしら。


「祐子さん・・・何かお話があるのでしょう?」

あやめさんにそう言われて、ハッと気が付く。
そうだ、私は事実をあやめさんに告げなきゃならない。
北川君は言うなって言ってたけど・・・もう、そう言うわけにはいかないよ・・・。
北川君だって、あれでも大事な友達の一人なんだから。
私は意を決して、あやめさんの方に振り向いた。

「あやめさん、落ち着いて聞いてね。あなたは―――」













※以下、北川視点です。


「う・・・うぅん・・・」

俺は何となく目が覚めたので、身体を起こして辺りを見回した。
あやめさんの姿は見えない。
いつもは、片時も離れず俺の傍に居るのに・・・。
キッチンの方にでも行ってるんだろうか?
そう重いながらも、何故か不安を感じた俺はベッドから起き上がった。
最近は、身体を起こすだけでも辛い。
ちょっとの事でもクラッときてしまう。
でも、俺はそんな事は気にせずに自分の部屋を出た。


1階のキッチンへと足を運ぶ。
あやめさんの姿は見えない。
隣のリビングも同様だった。
どこかへ行ったのか?
まさか・・・あやめさんが一人であちこち行くわけがない。
でも・・・だとしたらどこへ・・・。


Trrrrrr・・・。
Trrrrrr・・・。

そんな事を考えていたら、家の電話が鳴り響いた。
誰だろう・・・?

「もしもし、北川ですけど・・・」
『あ、北川君! そっちに祐子ちゃん行ってないかな?』

開口一番、そう言って来たのは・・・この声から察するに水瀬さんか。
何か随分慌ててるみたいだけど・・・。

「いや、来てないけど・・・相沢がどうかしたのか?」
『う~、それがさっきから居ないんだよ・・・それで北川君の所に行ってるのかと思ったのに・・・』

何だ、相沢も居ないのか?
こっちはあやめさんが居ないし、一体どこへ・・・。

・・・・・・・・・。

「まさか・・・」
『・・・? 北川君、どうしたの?』
「悪い、水瀬! 急用が出来たから切るぞ!!」
『え? え?? ちょ、ちょっと北川君・・・(ガチャッ!)』

受話器の向こうで水瀬さんが何か言いかけてたが、気にせず受話器を置く。
相沢が居ない・・・そして、あやめさんも居ない・・・。
ただの偶然かも知れない。
でも、俺には確信があった。


・・・相沢、勝手な真似しやがって!
俺は、疲れた身体に鞭打って家を飛び出すと、あやめさんを探すために駆け出した。




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