過去の遺作置き場
朝―――。
いつもと変わらない同じ朝・・・のはずだった。
「何じゃあ、こりゃあっ?!」
俺は思わず、某刑事の死に際の如く叫んでしまった。
いつもと変わらない同じ朝・・・のはずだった。
「何じゃあ、こりゃあっ?!」
俺は思わず、某刑事の死に際の如く叫んでしまった。
下を俯く俺の視線の先には、大きく膨らんだ柔らかそうな胸・・・。
更にその下の方には、本来あるべきはずのものが無い。
・・・誰がどう見ても、今の俺は可憐(かどうかは知らんが)な女の子。
「は、ははは・・・こ、これはきっと夢なんだな。早く目を覚まさないと・・・」
ぎゅっ。
「・・・・・痛ひ(泣)」
思いっきり自分の頬を抓ったら、思いっきり痛かった・・・。
夢じゃないのかよ、おい・・・。
何で目が覚めたらいきなり女の子になってなきゃならんのだ!
う~・・・学校どうするよ。
とりあえず、胸が目立たないようにさらしでも巻いて行くか・・・。
・・・なんか、さらし巻いてもあんまり効果無さそうなほど、胸おっきいけど(汗)
「・・・何で?」
部屋のクローゼット(こんなもんあったっけ?)を開くと中にあるのは、女性用の服ばかり。
もちろん、学校の制服はセーラー服だ。
「これを着てけと・・・?」
これじゃ完全に女の子じゃないか(体が女の子になってる時点で、すでに手遅れだが)
う~む・・・どうなっとるんだ?
そう言えば、冷静になって部屋を見回してみると、確かに自分の部屋なのだが所々が女の子っぽく変わっている。
ベッドカバー、確か黒だったはずなのにピンクだし・・・棚の上には、見覚えの無いぬいぐるみとか飾ってあるし・・・。
部屋の隅にある鏡台(何でこんなもんあるんだ?)の方を見ると、そこに移る姿はどう見ても見覚えのある自分の顔では無い。
体だけが女の子になったと言うわけではなく、完全な別人。
・・・なんか、頭がこんがらがりそうだ。
「ちょっと、いつまで寝てるのー?学校遅れるわよー」
「あ、はーい。今行くー」
・・・母親の声を聞いて、無意識の内に女の子の喋り方で返している。
それに大して、母親が何も言ってこないと言う事は、俺は元々女の子だって事か?
ますます訳が分からんな・・・・。
「・・・とりあえず、遅刻しちゃうといけないから着替えようっと」
独り言まで完全に女言葉になってるが、もうこの際気にしない。
・・・気にした所でしょうがないし。
クローゼットの中から、セーラー服の他に着替えの下着も取り出し、俺は慣れた手つきで自分の着ている服を着替えていく。
・・・何故か知らんが、着けた事もないブラジャーや着た事もないセーラー服の着方が意識しなくても分かる。
段々、俺って元々女の子だったのかも?とか言う不毛な考えに突入しかけるが何とか押しとどめ、着替え終わったセーラー服のスカートを翻し、部屋の外へと・・・。
・・・・(汗)
ますます、どつぼにはまってるような気がする。
良いや。もう止めよう、考えるのは。
今の俺・・・いや、私は女の子なんだから。
それで良いじゃない。
「娘よ~~~~っ!」
バキィッ!
突然後ろから襲い掛かってきたお父さんに、私は無意識のうちに振り向きざまの肘鉄を顔面にめり込ませていた。
お父さんは、そのままずり落ちるかのゆっくりと下降を始めたかと思うと、一気に床に向かってドシン!と落ちた。
「・・・・・・あ!お父さんごめんなさい!私、つい!」
私は、床に蛙の様にうつぶせに倒れているお父さんを抱きかかえると、ゆさゆさと揺り起こす。
「娘よ・・・・見事だ、がくっ」
お父さんは、私に向かって親指を突き出すと、そのままがくっと倒れこんだ。
「いやあっ、お父さん!お父さん!!」
「あなた達、朝から何やってるの・・・(呆)」
後ろから現れたお母さんが、腰に手を当て、やれやれと溜息をついている。
「いや~、佳奈美の奴が意外とノリが良いもんでついな」
お父さんは、頭に手を当てて「はっはっは」と笑いながら起き上がる。
「えへ、たまにはお父さんの芝居に付き合ってあげるのも良いかなと思って」
私は、片目を瞑ってぺろっとしたを出す。
「はいはい。そんなことより、早くご飯食べないと、遅くなっちゃうわよ」
「あ、は~い」
もうちょっとお父さんと遊んでてても良かったけど、遅刻するわけにはいかないもんね。
サッと朝食を済ませ、鞄を持つと私は玄関の方へ。
「行ってきま~す」
「行ってらっしゃい」
「おぉ、娘よ。無事で帰って来いよ!」
お母さんとお父さんの変な見送りを受けて、私は勢いよく玄関から飛び出した。
「きゃっ!」
小さな悲鳴と共に、目の前に一人の女の子が。
「あ、ごめん真希!大丈夫?」
「うぅ・・・佳奈ちゃん、いきなり出てこないでよぅ」
三つ編みにした黒髪とそばかすが印象的な女の子・・・私の親友、真希はお尻を痛そうにさすりながら起き上がる。
「ほんとにごめんね、真希。どこか怪我してない?」
「うぅん、大丈夫」
「良かった。ところでどうしたの?家まで来るなんて」
いつもは、通学路の途中で合流して一緒に登校している。
多少遅れても、真希はいつもその場所で待っているので、わざわざ家まで来る事なんて無いんだけど・・・。
「えっ、だって佳奈ちゃん、今日はいつも以上に遅いから、もしかして何かあったのかと思っちゃって・・・」
「いつも以上って・・・今、何時?」
「えっとねぇ・・・8時25分」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
数秒の沈黙。
「?!ちょっと待ってよ、完全に遅刻じゃない!!」
8時20分と言うと、いつもならとっくに学校に着いてる時間じゃないの。
こんなに時間過ぎてたわけ?(汗)
「だから迎えに来たの。早く行こう?」
「そうね、走るわよ!」
最低でも、授業が始まる40分までには教室に入ってないといけない。
15分以内かぁ・・・かなり本気で走らないとまずいかも・・・。
「あぁ!佳奈ちゃん、そんなに早く走らないでよぉ」
「何、悠長な事言ってるのよ!間に合わないわよ!」
「佳奈ちゃんが遅れたせいなのにぃ・・・」
「う゛・・・と、とにかく走る!」
ちょこちょこと必死に走りながらついてくる真希を、時々振り返って気遣いながら学校までの道を全力で駆け抜ける。
これなら何とか間に合うかも知れない。
私は安堵しつつ、走り続けた。
「ねぇ、真希。これはどう言う事?」
「う~ん・・・どう言う事だろう・・・?」
いざ学校まで辿り着くと、もうすでに40分近いはずなのに、のんびりと登校する生徒で溢れている。
気になって校舎の時計台の方を見ると、まだ30分前だった。
「真希・・・説明してもらえるんでしょうね・・・」
「え~と、え~と・・・」
真希はオロオロしながら自分の時計と時計台の時間を見比べ、何度も首を傾げる。
その仕草が可愛くて思わず私は抱きしめ・・・って、何考えてんのよ。
こんな人前で・・・(そう言う問題ではない)
「あ、分かった!」
真希がポンと手を鳴らす。
古典的表現をすれば、頭の上に電球が光っていたかも知れない。
「あはは、ごめんねぇ佳奈ちゃん」
とりあえず、真希は一言謝った。
・・・何も理由を言わずに、いきなり謝られても困るんですけど。
「あのね・・・実は私、自分の時計15分早めてたの忘れてた」
「はぁ?」
「えっと・・・理由は忘れちゃったんだけど、時計の針を15分進めてあったの。で、それをすっかり忘れてて・・・」
「・・・まだ全然時間的に大丈夫なのに、勘違いしてあんなに急かしたわけ?」
「私は別に急かしてないよぅ。ただ、遅いよって言っただけで・・・」
「同じことじゃない・・・」
私はがっくりと肩を落とした。
何の為に朝からこんなに体力使ったと思ってるのよ・・・。
はぁ・・・無駄な事したわ・・・。
私はもう疲れてそれ以上何も言う気も起きず、ただ黙って真希と一緒に教室へと向かった。
一日の授業も滞りなく終わり、今は放課後。
私は、特にすぐ帰る用事も無かったから、クラスの男子と世間話に華を咲かせていた。
「はぁ、もう今朝は本当に疲れたわ」
「はは、御堂の奴だろ。いつもの事じゃないか」
「まぁ、そうなんだけどね」
真希はどこか少し抜けたような所があり、今朝のような事は日常茶飯事。
最初の頃は、それこそ本当に友達やめようかと思った事もあったけど、今ではすっかり慣れてしまった。
真希も悪気がある訳じゃないんだしね。
「それにしても、お前と御堂って仲良いよな」
「そう?」
「あぁ。どこへ行くにも何をするにもいつも一緒だし。まぁ、たまに今日みたいに一人の時もあるみたいだけど」
「今日は、真希が職員室に呼ばれてるんだからしょうがないわ」
「ふむ・・・」
その男子は顎に手を当てて、じーっと私の方を見てる。
「な、何・・・?」
「お前と御堂ってもしかして・・・・これな仲?」
そう言って、小指を突き出してくる。
これな仲って言って小指を突き出してくるって事は・・・?
・・・・・・・。
「・・・・・あのねぇ」
「はは、冗談だよ冗談!本気にするなって」
「当たり前よ」
いくらなんでも、私と真希が付き合ってるわけないでしょ?
確かに真希の事は好きだけどさぁ・・・。
あれ?ちょっと待って。
私は女の子よね。
そして真希も女の子・・・。
私は真希の事が好き・・・女の子同士なのに?
変・・・よね。
でも私、全然違和感がない・・・。
それどころか、ずっと昔から真希の事好きだったような・・・。
「・・・・・久井、名久井ってば!」
「・・・えっ?」
「どうしたんだよ、いきなり黙り込んで」
「え、あ・・・ごめん。ちょっと考え事をね」
「名久井って、たまに人が話しかけてるのも構わずに考え込む事あるよなぁ」
「だからごめんってば」
どこでもすぐ考え込んじゃうこの癖・・・直さないといけないなぁ。
「佳奈ちゃ~ん」
あ、真希が戻ってきたみたいね。
「それじゃ、真希が来たから行くわ。じゃね」
「おぅ、また明日な~」
私は軽く手を振ると、真希の元に走り寄った。
「それじゃ真希、帰りましょ」
「・・・うん」
何故か真希は、私がさっきまで話してた男子の方をじっと見ていた。
・・・どうしたんだろう?
いつもと同じ帰り道。
そしていつもと同じように真希と二人並んで歩く。
もうすっかり馴染んだ光景。
でも、私はさっきの事もあって妙に真希を意識していた。
胸が少しドキドキしていて、真希の方をまっすぐ見れない。
私は真希の事が好きなんだと、自覚してしまったから・・・。
隣を歩く真希は、楽しそうに私に色んな事を話しかけている。
そんな真希がすごく可愛くて・・・思わず抱きしめたくなってしまう。
でも・・・そんな事をしたら、真希はどう思うだろう?
嫌われちゃうかな・・・。
私がもし男の子だったら、何も問題ないのに・・・。
どうして私は女の子なんだろう。
「佳奈ちゃん?」
「え、あ、何?」
「さっきからボーッとしてるけどぉ・・・どうかしたの?」
「え、別にどうもしないよ?」
「そ~お?なら良いんだけど・・・」
「良いんだけど、何?」
真希は口元に手を当て、顔をそらして考え込むような仕草をする。
「あのね・・・佳奈ちゃん、一つ聞いて良い?」
「何?」
「さっき佳奈ちゃん、クラスの男の子と楽しそうに話してたよね」
「え?」
さっき、真希の事を話してた男子よね。
そんなに楽しそうに見えたのかな?
「楽しそうかどうかは知らないけど、話してたけど?」
「うん・・・佳奈ちゃんが男の人とあぁ言う風に話してるの初めて見たんだけど・・・」
「そ、そうかなぁ・・・」
私は、いつも通りみんなと話すのと同じように話してたと思うけど・・・。
「ねぇ、もしかして・・・あの人が好きとかそう言うのはない?」
「えぇ!?な、ないわよ、そんなの!」
私が、あの男子の事を好き?
冗談止めてよね・・・。
「本当に?」
「本当に!第一私は真希の事が好きなのに、何で他の男子なんか!・・・・って、あ」
・・・勢い任せに言っちゃった(汗)
どうしよう・・・。
真希は・・・あ、鳩が豆鉄砲食らったような顔でキョトンとしてる。
と、一気に顔が赤くなり俯いちゃった。
「か、佳奈ちゃん・・・今の・・・」
「え、え~と・・・まぁ、今の言葉通り・・・かな」
「そ、そうなんだ・・・」
真希は再び俯いて、それっきり俯いてしまう。
うぅ・・・なんか気まずいなぁ。
何か言わないと・・・。
「あ、か、佳奈ちゃん。私、急用思い出しちゃったから、ま、また明日、ね」
「え、あ、真希!ちょっ・・・」
私が止める間も無く、真希は普段では考えられないようなスピードで、去っていってしまった。
あ~あ・・・私が余計な事言っちゃったばっかりに・・・。
もう明日からは、今までのようには出来ないかな・・・。
「ハァ・・・」
私は深い溜息を一つ吐くと、一人寂しく家路へと着いた。
夜・・・。
何もする事が無くなり後は寝るだけとなった私は、ベッドの中で一人色々と考えていた。
私は正真正銘の女の子。
それも、自分で言うのもなんだけど、可愛い方だ。
そんな私が、誰がどう間違えたって男でなんかあるわけがない。
でも・・・・。
それじゃあ、私の中にあるこの想いは何?
そして・・・どことなく感じる、この女である事の違和感はなんなの?
・・・・いくら考えたところで、何も分かりはしない。
そう言えば・・・私、今朝の起きてすぐ辺りの記憶が無い。
いや、無いと言うより、霞がかかったかのように思い出せない。
今朝・・・何があったんだっけ・・・。
何か、重要な事だった気がする。
何で思い出せないんだろう?
・・・何だか、急に眠くなってきた。
もう寝よう。
真希の事はまた明日になってから考えても遅くない。
私は、そのまま深い眠りへと落ちていった。
朝―――。
いつもと同じ朝。
変わらない朝・・・のはずだった。
「何よ、これぇっ?!」
私は、それこそ奇声に近いような声を上げてしまった。
胸にはあるべきはずの膨らみがなく、まっ平ら。
そして、更にその下には、本来無いはずのものが自分を主張している。
誰がどう見ても、今の私は格好良い(かどうかは知らないけど)男の子。
「は、ははは・・・・こ、これは夢よね。早く目を覚まさないと・・・」
ギュッ。
「・・・痛い(泣)」
抓った頬が、ひりひりと痛む。
どうやら夢じゃないみたい。
私は間違いなく女の子だったはず・・・。
それがどうして、朝目覚めたら男の子になってるわけ?
あれ?ちょっと待って。
昨日もこんな事があったような・・・。
私って、元々男の子だったんだっけ?
うぅん、元々女の子だったような気もする・・・。
どう言う事?
私は男の子?・・・それとも女の子?
一体どっちなの。
分からない・・・・。
ねぇ、誰か教えてよ!!
終わり・・・?
更にその下の方には、本来あるべきはずのものが無い。
・・・誰がどう見ても、今の俺は可憐(かどうかは知らんが)な女の子。
「は、ははは・・・こ、これはきっと夢なんだな。早く目を覚まさないと・・・」
ぎゅっ。
「・・・・・痛ひ(泣)」
思いっきり自分の頬を抓ったら、思いっきり痛かった・・・。
夢じゃないのかよ、おい・・・。
何で目が覚めたらいきなり女の子になってなきゃならんのだ!
う~・・・学校どうするよ。
とりあえず、胸が目立たないようにさらしでも巻いて行くか・・・。
・・・なんか、さらし巻いてもあんまり効果無さそうなほど、胸おっきいけど(汗)
「・・・何で?」
部屋のクローゼット(こんなもんあったっけ?)を開くと中にあるのは、女性用の服ばかり。
もちろん、学校の制服はセーラー服だ。
「これを着てけと・・・?」
これじゃ完全に女の子じゃないか(体が女の子になってる時点で、すでに手遅れだが)
う~む・・・どうなっとるんだ?
そう言えば、冷静になって部屋を見回してみると、確かに自分の部屋なのだが所々が女の子っぽく変わっている。
ベッドカバー、確か黒だったはずなのにピンクだし・・・棚の上には、見覚えの無いぬいぐるみとか飾ってあるし・・・。
部屋の隅にある鏡台(何でこんなもんあるんだ?)の方を見ると、そこに移る姿はどう見ても見覚えのある自分の顔では無い。
体だけが女の子になったと言うわけではなく、完全な別人。
・・・なんか、頭がこんがらがりそうだ。
「ちょっと、いつまで寝てるのー?学校遅れるわよー」
「あ、はーい。今行くー」
・・・母親の声を聞いて、無意識の内に女の子の喋り方で返している。
それに大して、母親が何も言ってこないと言う事は、俺は元々女の子だって事か?
ますます訳が分からんな・・・・。
「・・・とりあえず、遅刻しちゃうといけないから着替えようっと」
独り言まで完全に女言葉になってるが、もうこの際気にしない。
・・・気にした所でしょうがないし。
クローゼットの中から、セーラー服の他に着替えの下着も取り出し、俺は慣れた手つきで自分の着ている服を着替えていく。
・・・何故か知らんが、着けた事もないブラジャーや着た事もないセーラー服の着方が意識しなくても分かる。
段々、俺って元々女の子だったのかも?とか言う不毛な考えに突入しかけるが何とか押しとどめ、着替え終わったセーラー服のスカートを翻し、部屋の外へと・・・。
・・・・(汗)
ますます、どつぼにはまってるような気がする。
良いや。もう止めよう、考えるのは。
今の俺・・・いや、私は女の子なんだから。
それで良いじゃない。
「娘よ~~~~っ!」
バキィッ!
突然後ろから襲い掛かってきたお父さんに、私は無意識のうちに振り向きざまの肘鉄を顔面にめり込ませていた。
お父さんは、そのままずり落ちるかのゆっくりと下降を始めたかと思うと、一気に床に向かってドシン!と落ちた。
「・・・・・・あ!お父さんごめんなさい!私、つい!」
私は、床に蛙の様にうつぶせに倒れているお父さんを抱きかかえると、ゆさゆさと揺り起こす。
「娘よ・・・・見事だ、がくっ」
お父さんは、私に向かって親指を突き出すと、そのままがくっと倒れこんだ。
「いやあっ、お父さん!お父さん!!」
「あなた達、朝から何やってるの・・・(呆)」
後ろから現れたお母さんが、腰に手を当て、やれやれと溜息をついている。
「いや~、佳奈美の奴が意外とノリが良いもんでついな」
お父さんは、頭に手を当てて「はっはっは」と笑いながら起き上がる。
「えへ、たまにはお父さんの芝居に付き合ってあげるのも良いかなと思って」
私は、片目を瞑ってぺろっとしたを出す。
「はいはい。そんなことより、早くご飯食べないと、遅くなっちゃうわよ」
「あ、は~い」
もうちょっとお父さんと遊んでてても良かったけど、遅刻するわけにはいかないもんね。
サッと朝食を済ませ、鞄を持つと私は玄関の方へ。
「行ってきま~す」
「行ってらっしゃい」
「おぉ、娘よ。無事で帰って来いよ!」
お母さんとお父さんの変な見送りを受けて、私は勢いよく玄関から飛び出した。
「きゃっ!」
小さな悲鳴と共に、目の前に一人の女の子が。
「あ、ごめん真希!大丈夫?」
「うぅ・・・佳奈ちゃん、いきなり出てこないでよぅ」
三つ編みにした黒髪とそばかすが印象的な女の子・・・私の親友、真希はお尻を痛そうにさすりながら起き上がる。
「ほんとにごめんね、真希。どこか怪我してない?」
「うぅん、大丈夫」
「良かった。ところでどうしたの?家まで来るなんて」
いつもは、通学路の途中で合流して一緒に登校している。
多少遅れても、真希はいつもその場所で待っているので、わざわざ家まで来る事なんて無いんだけど・・・。
「えっ、だって佳奈ちゃん、今日はいつも以上に遅いから、もしかして何かあったのかと思っちゃって・・・」
「いつも以上って・・・今、何時?」
「えっとねぇ・・・8時25分」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
数秒の沈黙。
「?!ちょっと待ってよ、完全に遅刻じゃない!!」
8時20分と言うと、いつもならとっくに学校に着いてる時間じゃないの。
こんなに時間過ぎてたわけ?(汗)
「だから迎えに来たの。早く行こう?」
「そうね、走るわよ!」
最低でも、授業が始まる40分までには教室に入ってないといけない。
15分以内かぁ・・・かなり本気で走らないとまずいかも・・・。
「あぁ!佳奈ちゃん、そんなに早く走らないでよぉ」
「何、悠長な事言ってるのよ!間に合わないわよ!」
「佳奈ちゃんが遅れたせいなのにぃ・・・」
「う゛・・・と、とにかく走る!」
ちょこちょこと必死に走りながらついてくる真希を、時々振り返って気遣いながら学校までの道を全力で駆け抜ける。
これなら何とか間に合うかも知れない。
私は安堵しつつ、走り続けた。
「ねぇ、真希。これはどう言う事?」
「う~ん・・・どう言う事だろう・・・?」
いざ学校まで辿り着くと、もうすでに40分近いはずなのに、のんびりと登校する生徒で溢れている。
気になって校舎の時計台の方を見ると、まだ30分前だった。
「真希・・・説明してもらえるんでしょうね・・・」
「え~と、え~と・・・」
真希はオロオロしながら自分の時計と時計台の時間を見比べ、何度も首を傾げる。
その仕草が可愛くて思わず私は抱きしめ・・・って、何考えてんのよ。
こんな人前で・・・(そう言う問題ではない)
「あ、分かった!」
真希がポンと手を鳴らす。
古典的表現をすれば、頭の上に電球が光っていたかも知れない。
「あはは、ごめんねぇ佳奈ちゃん」
とりあえず、真希は一言謝った。
・・・何も理由を言わずに、いきなり謝られても困るんですけど。
「あのね・・・実は私、自分の時計15分早めてたの忘れてた」
「はぁ?」
「えっと・・・理由は忘れちゃったんだけど、時計の針を15分進めてあったの。で、それをすっかり忘れてて・・・」
「・・・まだ全然時間的に大丈夫なのに、勘違いしてあんなに急かしたわけ?」
「私は別に急かしてないよぅ。ただ、遅いよって言っただけで・・・」
「同じことじゃない・・・」
私はがっくりと肩を落とした。
何の為に朝からこんなに体力使ったと思ってるのよ・・・。
はぁ・・・無駄な事したわ・・・。
私はもう疲れてそれ以上何も言う気も起きず、ただ黙って真希と一緒に教室へと向かった。
一日の授業も滞りなく終わり、今は放課後。
私は、特にすぐ帰る用事も無かったから、クラスの男子と世間話に華を咲かせていた。
「はぁ、もう今朝は本当に疲れたわ」
「はは、御堂の奴だろ。いつもの事じゃないか」
「まぁ、そうなんだけどね」
真希はどこか少し抜けたような所があり、今朝のような事は日常茶飯事。
最初の頃は、それこそ本当に友達やめようかと思った事もあったけど、今ではすっかり慣れてしまった。
真希も悪気がある訳じゃないんだしね。
「それにしても、お前と御堂って仲良いよな」
「そう?」
「あぁ。どこへ行くにも何をするにもいつも一緒だし。まぁ、たまに今日みたいに一人の時もあるみたいだけど」
「今日は、真希が職員室に呼ばれてるんだからしょうがないわ」
「ふむ・・・」
その男子は顎に手を当てて、じーっと私の方を見てる。
「な、何・・・?」
「お前と御堂ってもしかして・・・・これな仲?」
そう言って、小指を突き出してくる。
これな仲って言って小指を突き出してくるって事は・・・?
・・・・・・・。
「・・・・・あのねぇ」
「はは、冗談だよ冗談!本気にするなって」
「当たり前よ」
いくらなんでも、私と真希が付き合ってるわけないでしょ?
確かに真希の事は好きだけどさぁ・・・。
あれ?ちょっと待って。
私は女の子よね。
そして真希も女の子・・・。
私は真希の事が好き・・・女の子同士なのに?
変・・・よね。
でも私、全然違和感がない・・・。
それどころか、ずっと昔から真希の事好きだったような・・・。
「・・・・・久井、名久井ってば!」
「・・・えっ?」
「どうしたんだよ、いきなり黙り込んで」
「え、あ・・・ごめん。ちょっと考え事をね」
「名久井って、たまに人が話しかけてるのも構わずに考え込む事あるよなぁ」
「だからごめんってば」
どこでもすぐ考え込んじゃうこの癖・・・直さないといけないなぁ。
「佳奈ちゃ~ん」
あ、真希が戻ってきたみたいね。
「それじゃ、真希が来たから行くわ。じゃね」
「おぅ、また明日な~」
私は軽く手を振ると、真希の元に走り寄った。
「それじゃ真希、帰りましょ」
「・・・うん」
何故か真希は、私がさっきまで話してた男子の方をじっと見ていた。
・・・どうしたんだろう?
いつもと同じ帰り道。
そしていつもと同じように真希と二人並んで歩く。
もうすっかり馴染んだ光景。
でも、私はさっきの事もあって妙に真希を意識していた。
胸が少しドキドキしていて、真希の方をまっすぐ見れない。
私は真希の事が好きなんだと、自覚してしまったから・・・。
隣を歩く真希は、楽しそうに私に色んな事を話しかけている。
そんな真希がすごく可愛くて・・・思わず抱きしめたくなってしまう。
でも・・・そんな事をしたら、真希はどう思うだろう?
嫌われちゃうかな・・・。
私がもし男の子だったら、何も問題ないのに・・・。
どうして私は女の子なんだろう。
「佳奈ちゃん?」
「え、あ、何?」
「さっきからボーッとしてるけどぉ・・・どうかしたの?」
「え、別にどうもしないよ?」
「そ~お?なら良いんだけど・・・」
「良いんだけど、何?」
真希は口元に手を当て、顔をそらして考え込むような仕草をする。
「あのね・・・佳奈ちゃん、一つ聞いて良い?」
「何?」
「さっき佳奈ちゃん、クラスの男の子と楽しそうに話してたよね」
「え?」
さっき、真希の事を話してた男子よね。
そんなに楽しそうに見えたのかな?
「楽しそうかどうかは知らないけど、話してたけど?」
「うん・・・佳奈ちゃんが男の人とあぁ言う風に話してるの初めて見たんだけど・・・」
「そ、そうかなぁ・・・」
私は、いつも通りみんなと話すのと同じように話してたと思うけど・・・。
「ねぇ、もしかして・・・あの人が好きとかそう言うのはない?」
「えぇ!?な、ないわよ、そんなの!」
私が、あの男子の事を好き?
冗談止めてよね・・・。
「本当に?」
「本当に!第一私は真希の事が好きなのに、何で他の男子なんか!・・・・って、あ」
・・・勢い任せに言っちゃった(汗)
どうしよう・・・。
真希は・・・あ、鳩が豆鉄砲食らったような顔でキョトンとしてる。
と、一気に顔が赤くなり俯いちゃった。
「か、佳奈ちゃん・・・今の・・・」
「え、え~と・・・まぁ、今の言葉通り・・・かな」
「そ、そうなんだ・・・」
真希は再び俯いて、それっきり俯いてしまう。
うぅ・・・なんか気まずいなぁ。
何か言わないと・・・。
「あ、か、佳奈ちゃん。私、急用思い出しちゃったから、ま、また明日、ね」
「え、あ、真希!ちょっ・・・」
私が止める間も無く、真希は普段では考えられないようなスピードで、去っていってしまった。
あ~あ・・・私が余計な事言っちゃったばっかりに・・・。
もう明日からは、今までのようには出来ないかな・・・。
「ハァ・・・」
私は深い溜息を一つ吐くと、一人寂しく家路へと着いた。
夜・・・。
何もする事が無くなり後は寝るだけとなった私は、ベッドの中で一人色々と考えていた。
私は正真正銘の女の子。
それも、自分で言うのもなんだけど、可愛い方だ。
そんな私が、誰がどう間違えたって男でなんかあるわけがない。
でも・・・・。
それじゃあ、私の中にあるこの想いは何?
そして・・・どことなく感じる、この女である事の違和感はなんなの?
・・・・いくら考えたところで、何も分かりはしない。
そう言えば・・・私、今朝の起きてすぐ辺りの記憶が無い。
いや、無いと言うより、霞がかかったかのように思い出せない。
今朝・・・何があったんだっけ・・・。
何か、重要な事だった気がする。
何で思い出せないんだろう?
・・・何だか、急に眠くなってきた。
もう寝よう。
真希の事はまた明日になってから考えても遅くない。
私は、そのまま深い眠りへと落ちていった。
朝―――。
いつもと同じ朝。
変わらない朝・・・のはずだった。
「何よ、これぇっ?!」
私は、それこそ奇声に近いような声を上げてしまった。
胸にはあるべきはずの膨らみがなく、まっ平ら。
そして、更にその下には、本来無いはずのものが自分を主張している。
誰がどう見ても、今の私は格好良い(かどうかは知らないけど)男の子。
「は、ははは・・・・こ、これは夢よね。早く目を覚まさないと・・・」
ギュッ。
「・・・痛い(泣)」
抓った頬が、ひりひりと痛む。
どうやら夢じゃないみたい。
私は間違いなく女の子だったはず・・・。
それがどうして、朝目覚めたら男の子になってるわけ?
あれ?ちょっと待って。
昨日もこんな事があったような・・・。
私って、元々男の子だったんだっけ?
うぅん、元々女の子だったような気もする・・・。
どう言う事?
私は男の子?・・・それとも女の子?
一体どっちなの。
分からない・・・・。
ねぇ、誰か教えてよ!!
終わり・・・?
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