過去の遺作置き場
6月23日
「う~ん・・・・この後、どうしようかな」
俺は商店街のある店から出ると、そう呟いた。
「う~ん・・・・この後、どうしようかな」
俺は商店街のある店から出ると、そう呟いた。
今日は日曜日。
学校も休みである。
特にする事がなく暇だった俺は、商店街へ来ていた。
別に、特に何か欲しいものがあった訳じゃないのだが、何故か俺の手には買ったばかりの洋服の入った袋が提げられていた。
・・・・衝動買いと言うやつだ。
いや、可愛い服があったのでついな。
・・・・ま、それは置いといて。
もう特に用事もないんだが、このまま帰っても無駄な時間を過ごすだけだしなぁ。
「祐子さん」
「え?」
突然誰かに呼びかけられて振り返ると、そこには・・・・。
「香里に栞?」
「こんにちわ、相沢さん」
「えへへ~、こんにちは~です」
香里と栞が私服姿で立っていた。
手に持つ荷物を見る所、二人も買い物らしいな。
「相沢さん、何してたの?」
「買い物よ。香里たちも同じでしょ?」
「まぁ、ね」
そう言って肩を竦める香里。
まぁ、栞の持っている荷物の中身を見たら理由も分かろうと言うものだが。
「栞・・・・アイス沢山買うのは構わないけど、溶けるわよ?」
「大丈夫ですよ、ちゃんとドライアイス入れてありますから」
そう言って、えへんと無い胸を張る栞。
・・・・これだけ暑いとドライアイスも無駄なような気がする。
「・・・・なんでしょう、何となくむかつきます」
「気のせいよ」
相変わらず鋭いな、栞。
「ねぇ、相沢さん。これから何か予定とかあるの?」
「これから?特に無いけど・・・・」
「それじゃ、私達にちょっと付き合ってください」
「別に良いけど、何するの?」
「散歩よ」
「散歩?」
「散歩です~」
・・・・この暑いのに?
出来れば勘弁願いたいが・・・・。
「一緒に行くわよね?」
「行ってくれますよね?」
・・・・どうやら拒否権はないらしい。
ま、良いか。
そして、3人で仲良く商店街を歩いていた時の事。
「あれ?」
栞が何かを見つけたらしい。
一点を見つめて動かない。
「どうしたの?」
「あれ・・・・」
そう言って栞が指差した方向には・・・・北川と南の姿が。
いや・・・・あの立ち居振る舞いや仕種からすると、あれはあやめさんか?
どうやら、南の特訓はうまくいったらしいな。
それで、日曜にさっそくデートか・・・・。
「男の人の方は北川さんですよね? どうして朝霧さんと一緒に居るんでしょう?」
「栞、南の事知ってるの?」
「はい、だって同じクラスですから」
ありゃま、こんな所にも意外な接点が。
しかし、参ったな・・・・。
何でこうも次々とあやめさんと遭遇してしまうんだ。
「私、ちょっと声かけてきます」
「あ、ちょっと!」
止める間も無く、タタターッと走って行ってしまう栞。
駄目だ、止めないと。
「栞、待ちなさいって!」
「そうよ栞、邪魔しちゃ駄目よ!」
香里も一緒になって止めようとする。
俺とは目的が違うが、このさい何でも良い。
しかし、俺達の声もむなしく栞は二人の元に到達してしまった。
「こんにちは~」
「い゛っ、し、栞ちゃん?!」
「?」
突然の来襲者に、慌てふためく北川とよく分かっていないあやめさん。
「朝霧さん、いつから北川さんと知り合いになったんです~?」
栞が楽しそうにあやめさんに向かって話しかけている。
多分冷やかす為だろうが・・・・。
何の事だか分かっていないあやめさんはうろたえるばかりだ。
「栞!二人の邪魔しちゃだめじゃない」
「えぅ~、でも気になります~」
「気になっても駄目なものは駄目!」
何とかして栞を引き離そうとするが、しつこくあやめさんの元から離れない。
そんなに気になる事か?
「あ、あの・・・・初めまして、わたくし朝霧あやめと申します。祐子さんや潤様のお友達なんですね」
あらら、あやめさん言っちゃったよ。
「え?」
あやめさんの自己紹介を聞き、ぽかんとする栞。
「朝霧南・・・・さんじゃないんですか?」
「い、いとこ!朝霧の従姉妹なんだよ!似てるだろ、ははははっ」
咄嗟に言い繕う北川。
まぁ、いきなりにしちゃ出来た演技だ。
「・・・・嘘ですよね」
でも、やっぱり効かなかったようだ。
いや、表情を見る限りでは半信半疑ってとこか?
(北川、そのまま従姉妹として話進めなさい)
(わ、分かった)
目配せでそう会話する俺達。
うまく通じたらしい。
「それにしても似てますね・・・・こんなそっくりな従姉妹がいるなんて聞いてませんでしたけど」
マジマジと凝視している。
なぜか、香里も。
その視線に困惑してあやめさんは俯いてしまった。
「あ、性格は全然違うんですね。随分と大人しい感じで・・・・朝霧さんとは正反対です~」
栞はそう言ってクスッと笑った。
「・・・・あれ?」
北川が自分の後ろに隠れるようにしていたあやめさん見て声を上げた。
そう言えば、あやめさんの態度が少し変・・・・?
「・・・・南さん?」
あやめさんが呟く。
と、突然あやめさんの表情が変わった。
眉が釣り上がりオドオドした感じがなくなる。
・・・・これはヤバイのでは?
「朝霧、ここじゃマズいっ!!」
北川も気付いたらしい。
咄嗟に叫ぶがもう間に合わない。
白い固まりが南から抜けていった。
「正反対で悪かったですねっ!」
「・・・・朝霧、朝霧」
頭を抱えながら南に声をかける北川。
その北川の声に正気が戻ったらしく、南はハッとした顔で周りを見渡す。
「あれ・・・・・?」
あっちゃー、突然の豹変に香里と栞が驚いてる。
まぁ、無理も無い。
「まっずーい!」
まったくだ。
「どうしよう、あやめさん追い出しちゃった!まだ日があるのにっ」
夕方になって日が陰っているとは言え、この時期の日は長い。
まだ、西の方からまぶしい光が差している。
「どうするのよ・・・・」
「・・・・だから不安だったんだ」
北川が頭を押さえながら呟く。
「ごめんなさいっ、あやめさん探さなきゃ!」
「・・・・朝霧・・・・さん?」
慌てる北川たちに訝しげな栞の声がかかる。
そうだ、こいつらが居たんだった。
「どう言う事ですか?」
説明してる暇なんかないぞ。
「北川、急いであやめさん探さないと・・・・」
「相沢・・・・そうだな。栞ちゃん悪い、俺達急いでるから」
「美坂さん、ごめん」
南がつい謝ってしまう。
「えぅ~、やっぱり朝霧さんです。一体どうなってるんですか?」
「あたし達にも分かるように説明が欲しいところね」
美坂姉妹が二人して詰め寄ってくる。
・・・・・・やむを得ん。
「・・・・北川、南。あの公園に行きましょう」
「そうね」
「分かった」
俺達は二人を無視することにした。
3人で公園に向かって走り出す。
と、香里と栞も追いかけてきた。
「あたしも行くわ」
「私も行きます~」
・・・・・無視だ無視。
どこまで続くか分からんがな。
ガンガン走って、例の公園までやってきた。
ここまで結構な距離がある。
普段から走りなれてる俺は良いが、北川と南ゼーハーしていた。
それとは対照的に、全然応えた風のない香里と栞。
栞・・・・お前、一体どこでそんなに体力つけたんだ。
「あやめさん居るかな?」
北川が、以前俺と一緒にあやめさんを見かけた現場付近を見やる。
「・・・・あやめさんて誰ですか?」
突っ込むなよ、栞。
「消えちゃったら、私のせいだ・・・・」
南・・・・そんなに落ち込むな。
まだ陽のある公園にあやめさんの姿は見えない。
「いないわ・・・・どうしよう・・・・」
「南、そんなに落ち込まないで・・・・まだ分からないわ。陽が落ちるまで待ちましょう」
南が小さく頷いた。
「さ、もう良いでしょう。説明してもらえる?」
香里がにじり寄る。
まぁ、忘れてくれる訳はないと思ってたが。
しかし、俺の口から言うわけにはいかないしな・・・・。
「北川・・・・」
「ん、分かった・・・・あやめさんは朝霧の先祖で幽霊だ」
北川は話し始めた。
まぁ、信じてくれなくても良いけど、香里と栞なら言いふらしたりはしないだろう。
「北川さん、良いの?」
南が不安げな声で北川に問いかける。
本当は良いわけないんだけど・・・・もう多数の人間にばれてるのも確かだし、構わないのではないかと思う。
「話してる方が気が紛れる・・・・」
そう言って、北川は南の方を見た。
「そうね、美坂さん達なら良いかな」
結局、詳しい話は全て南が話した。
香里と栞は嘘だとも言わずに黙ってその話を聞いていた。
試しにからかい半分に信じるかと聞いたら、
「待ってれば、実物が見れるんでしょ?見たら信じるわよ」
とのことだった。
ま、確かにそれもそうか。
やがて、夕陽が沈んでいく。
俺と北川は以前あやめさんを見た木立を凝視していた。
「そこに居たの?」
南が俺達の視線に気付いて質問する。
「そうね、初めてみたのがあそこだったわ」
「確か夕方で・・・・丁度、今と同じ頃だったな」
「そっか・・・・」
南も俺達と一緒になってそこを見ている。
ついでに、香里と栞もつられて見ていた。
・・・・・!
白い固まりが木立の姿をぼんやりとさせる。
「あやめさん・・・・?」
少しずつ人の形を取っていく。
やがて空色の着物が目に映った。
「あやめさんだ!良かったーっ!」
南があやめさんの元に駆け寄った。
「大丈夫?どこもなんともない?」
「はい。南さん」
南はあやめさんを気遣って、無事を確認する為に触ろうとする。
勿論、本当には触れなくて手は突き抜けている。
でも、南は確認が済むとホッとした感じで、
「じゃ私、あやめさんを送ってから帰るね」
と、先に公園を後にした。
「あ、俺も行くよ!」
その後を追って北川も続く。
残されたのは俺と美坂姉妹の3人。
「・・・・驚きました」
「あたしも・・・・」
冷静に驚くなよ、お前ら。
「幽霊って初めて見ました・・・・」
そうだっけ?
確かあゆが・・・・・あれは幽霊じゃないか。
似たようなもんだけど。
「香里、栞。誰にも言っちゃ駄目よ」
「分かったわ」
「誰にも言いません!」
よし、香里と栞なら誰にも言わないだろうから心配ないだろう。
「それじゃ帰りましょうか」
「あ、ちょ、ちょっと待って・・・・」
「?」
俺の声にすぐに付いてきた栞に対して、香里はその場から動かない。
「どうかしたの?」
「実はその・・・・動けなくて・・・・」
そう言って、香里はその場にぺたりと座り込む。
どうしたんだ?
「あたし・・・・腰抜けたちゃったみたい・・・・」
「え、腰抜け?」
「ち、違うわよ!!でも・・・・助けて・・・・」
何だ、情けないな香里。
しょうがないので、俺が香里を背中に担いで家まで連れて帰った。
途中、栞が何度も「お姉ちゃんだけずるいです~」とか言ってたが。
知るか、そんな事。
それにしても、結局俺と親しい仲の奴らには全員あやめさんの事知られちゃったな。
果たして、これからどうなる事やら。
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