過去の遺作置き場
7月10日
「うぅん・・・・? 朝・・・・」
カーテンの隙間から差し込む光で、目が覚めたみたい。
・・・・でも、まだ眠い。
体を捻って枕もとの時計を見ると、まだ目覚ましのなる時間の30分前ぐらい。
ちょっと早かったかな。
私は、もう一度布団の中にもぐりこむと、昨日の事を思い出していた。
「うぅん・・・・? 朝・・・・」
カーテンの隙間から差し込む光で、目が覚めたみたい。
・・・・でも、まだ眠い。
体を捻って枕もとの時計を見ると、まだ目覚ましのなる時間の30分前ぐらい。
ちょっと早かったかな。
私は、もう一度布団の中にもぐりこむと、昨日の事を思い出していた。
昨日、あの後私は病院へ行ってきた。
念の為の検査と・・・・記憶喪失の事で。
「ふぅむ、外傷などの心配はないですね。骨にも異常は見当たらないし、ほぼ無傷ですよ」
病院の診察室で、椅子に座って診断を受ける。
良かった、特に怪我とかしてないみたい。
でも、砲丸が直撃したのに無傷だなんて・・・・私の頭、どうなってるんだろう?(汗)
「それと記憶の方ですが、これも症状としては割りと軽いものなので、その内自然に戻ると思います。現在の状態でも日常生活には特に問題はありませんから、しばらくは様子見と言ったところですね」
「そうですか・・・・良かった」
「まぁ、あまり深く考えずに今の生活をエンジョイする事ですよ」
そう言いながら、『はっはっは』と笑っていた医者。
何かアバウトな医者だったわね・・・・。
まぁ、とりあえず大した事なさそうでほっとしたわ。
でも・・・・出来れば早く記憶は戻ってほしいけど・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
『朝~、朝だよ~』
「え、な、名雪?」
突然耳元で聞こえた女の子の声に驚いて、私は飛び起きた。
いつの間にか二度寝してたみたい・・・・。
『朝ご飯食べて、学校行くよ~』
見ると、その声は枕もとの目覚まし時計から発せされていた。
そう言えば、昨日セットしておいたんだっけ。
とりあえず、手を伸ばして目覚ましのスイッチを切る。
それにしても・・・・何か更に眠気を誘うような目覚ましね。
・・・・今まで、よくこんな目覚ましで起きれてたものね。
「ふわぁぁぁ・・・・あふ・・・・」
口に手を当てて、思わず大きな欠伸をしてしまう。
とと・・・・ちょっとはしたなかったかな。
でも、しょうがないよね・・・・昨日、遅くまで起きてたんだもの。
昨日・・・・名雪とその母親で家主の秋子さん、居候のあゆと真琴に、そして何故か泊まって行く事になった香里(何か心配だからって言ってたけど)。
集まった皆に、一人一人ちゃんとした自己紹介と説明を受けてたもんだから、寝るのがすっかり遅くなっちゃったのよね。
まぁ、おかげでこの家の家族の事は全部分かったけど。
それにしても、この家って見事なまでに女所帯よね~。
無用心極まりない事この上ないわ。
ま、それはとりあえず置いといて・・・・そろそろ着替えないと。
ベッドから抜け出し、クローゼットから制服を取り出そうとした時、
『ジリリリリリリ!!』
『ピピピッ、ピピピッ』
『コケコッコー!』
『ダーリン、最高じゃん!!』
突然、鳴り響く多種多様の目覚ましの音。
何か、変な声も聞こえたんだけど・・・・あれも目覚ましなのかしら?
う~ん・・・・予め聞いてなかったら、何事かと思うわね・・・・。
そしてこれが、昨日聞いた私の朝の重要な役割か・・・・。
そんな事を考えながら、私は着替えを終えると自分の役割を果たすべく、名雪の部屋のドアノブに手をかけた。
「あぁもうっ。全速力よ!名雪、香里!!」
「けろぴーろけっと背中に背負ってるから問題なし、だお~!」
「・・・・まだ寝惚けてるの、あんたは」
「はあ、はあ・・・・ちょっと待って・・二人とも・・早い・・・・」
『それでは、明日はいつもより少し早く起きた方がいいかもしれませんね』
昨日、そんな風に忠告する秋子さんに従い、目覚ましにセットした時間を10分早めておいたのだけど・・・・。
・・・・正解だったわね。
秋子さんの予想は見事的中していしまい、名雪を起こすのに手間取った私たちは、朝の街を全速力で駆け抜けていた。
「目覚めが悪いとは聞いていたけど・・・・これはちょっと異常なんじゃない? 名雪」
「うにゅ・・・・でも私はいつもこんな感じだお~」
「・・・・昨日までの私を尊敬するわ」
「はあ・・・はあ・・・」
未だはっきりと目が覚めていない名雪を横目で見ながらも、スピードは落とさず走り続ける。
それでも多少は目が覚めてきたのか、さっきよりはペースが上がってきていた。
それとは正反対に、少しずつペースの落ちてきている香里。
こっちはもう限界みたいね・・・・。
「・・・・あ」
黙々と走り続け、しばらくしてから名雪が小さく声をあげる。
・・・・何となく予想がつくんだけど。
「どうしたの?」
「えっと・・・・もう、100メートル11秒フラットくらいで走らないと間に合わないよ」
「えぇっ!?」
名雪の一言に悲鳴を上げる香里。
まぁ、無理もないわね。
100メートル11秒フラットって言ったら、全国大会出れるぐらい早いわよ?
・・・・しかも、男子で。
でも、不思議と私は焦りを感じないけど。
「名雪はいける?」
「うん」
「・・・・香里は?」
「はあ・・・はあ・・・私を・・・・この娘と・・・一緒にしないで・・・・」
聞くまでもないって感じね・・・・。
仕方ないわね。
「それじゃあ、私は右手、名雪が左手。 良い?」
「うん!」
そう言って、名雪と二人で香里の両脇から腕を抱える。
・・・・傍から見ると、捕まった宇宙人みたいな格好だけど。
「ちょ、ちょっと・・・・あなたたち、まさか・・・・」
許して香里・・・・背に腹は変えられないのよ。
遅刻したくないし。
「準備良いわね? それじゃ・・・・加速装置!」
「加速装置、すたんばいおっけー!」
「「ごーっ!!」」
二人で香里を抱えたまま、再加速。
さっきまでのスピードなんで目じゃない。
これなら、間に合う・・・・!
「いやぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!」
・・・・そして通学路に響き渡る少女の悲鳴。
ごめんね、香里・・・・。
ちょっとの間だから辛抱してね。
結局、何とか学校には遅刻せずに済んだ。
「相沢さん、大丈夫?」
「記憶喪失なんて、ドラマの中だけだと思ってたけど…」
「大変なんでしょ? 大丈夫、私に出来ることない?」
お昼休み・・・・授業が終わった途端、私はクラスの女子に囲まれてしまった。
午前中は、ずっと起きてられなくて寝てたから何も言ってこなかったんだけど・・・・。
このままお昼休みも寝た振りしてれば良かったかしら?
溜息をつきながら、きゃいきゃいと私の周りに集まる女子達を眺める。
心配してくれるのは嬉しいんだけどね・・・・ちょっと、騒がしすぎない?
誰か、助けてくれそうな人は・・・・。
そう思って隣の名雪の方に視線を向ける。
「え~へ~へ~・・・・祐子ちゃ~ん・・・・いちごとくりーむのとっぴんぐで出来上がり~・・・・いっただきま~す・・・・」
まだ夢の中ね・・・・。
「・・・・祐子ちゃん、恥ずかしがっちゃって可愛いよ~」
・・・・一体、どんな夢見てるわけ?
これは後でしっかりと問い詰める必要がありそうね・・・・小一時間ほど。
ん~・・・・じゃ、香里は?
「ふ・・・・ふふふ・・・・ゼロの領域が・・・・未来が見える・・・・」
虚ろな瞳であらぬところ見つめて何かを呟いている香里。
ま、まだあっちに行ったままなのね。
逆に助けないと駄目かしら?(汗)
う~ん・・・・いっその事逃げちゃおうかな・・・・。
そんな事を考えていると不意に女子の垣根の後ろから、
「皆、ちょっと相沢の周りで騒ぎすぎだぞ。心配するのは分かるけど、少しはそっとしておいてやれよ」
そんな、男子の声が聞こえた。
それと同時に垣根の一部が割れ、一人の男の子の姿が現れる。
え~と・・・・朝来たとき軽く自己紹介したわよね。
後ろの席だからって・・・・確か・・・・。
「き、北河君・・・・だっけ?」
「・・・・何か微妙に違う気もするぞ」
そう言いながらも、北河(?)君は頷いた。
パッと見は・・・・割と格好良い部類に入るかな?
「そう言う北川君はどうなの? 記憶がないからって、これを機に相沢さんに近づこうとしてるんじゃないの?」
「ふっふっふ・・・・俺は良いのさ。なんたって、恋人だからな」
へ~、北河君って私の恋人なんだ・・・・って、えぇっ?!
「ちょっとちょっとちょっと!馬鹿な事言わないでよ、あんた無茶苦茶嫌われてたじゃない!!」
「ふっ・・・・あれは人前で相沢が照れていただけさ。俺達は密かに夜の街で逢瀬を重ねていたんだからな」
え、えぇ? ええぇぇぇ~~~??!!
「と言うわけだから・・・・行くぞ、相沢!」
「え?え?きゃっ!?」
突然、北河君は私の手を取ったかと思うと教室から逃げ出した。
「あ、こらぁっ!!北川、待てぇ~~~!!!」
後ろから女子の声が聞こえたけど、北河君は止まらずにそのまま廊下を駆け抜けた。
・・・・この手・・・・振り解こうと思えばいつでも出来る。
だけど、私は何故かそうしなかった。
どうして・・・・こんなにもドキドキしてるんだろう。
しばらくして・・・・私は、屋上に連れて来られていた。
凄い・・・・街が一望出来る。
思わずフェンスの傍に駆け寄り、その光景に見入ってしまった。
夕方とかに見たら、もっと綺麗だろうな・・・・。
「災難だったな、相沢」
「あ、う、うん・・・・」
何となく・・・・彼の顔がまともに見れない。
何故だろう・・・・さっきのドキドキもまだ収まってないし・・・・。
「さ、さっきはありがとうね、北河君」
「あ~・・・・念の為言っとくが、俺は北河じゃなくて北川だ」
「?」
「・・・・だから、字が違うって言ってんの」
「・・・・何で会話で字が違うなんて分かるの?」
「むぅ・・・・まぁ、それは・・・・秘密だ」
「何か納得いかないわね~」
「ま、気にするな・・・・しかし、今の相沢ってまるで純情可憐な女の子に見えるよな~」
「ちょっと・・・・それじゃあ、私がまるで純情可憐とは程遠いみたいに聞こえるわよ!」
「はは、いや悪い悪い。でも、ようやくいつもの相沢らしくなったな」
「あ・・・・」
さっきまでのドキドキはいつの間にかなくなっていて・・・・私はいつも通りに戻っていた。
不思議・・・・。
「それじゃあ、改めて自己紹介するな。俺は北川潤、人呼んで『不死身の潤』だ!宜しくな」
「くすっ、何よそれ。でもまぁ、宜しくね、北河君」
「だから、北川だって」
「あ・・・・あはは、ごめんね」
そう言って照れ笑いしながら、私は北川君と握手を交わした。
「あ、ところで・・・・」
「あん?何だ、相沢」
ようやく落ち着いたので、私はさっきからずっと気になっていた事を聞いてみる事にした。
「あのね・・・・その・・・・さっき教室で言った事、本当?」
「さっき?何が?」
「だ、だから・・・・私と北川君が、その・・・・恋人同士だって・・・・」
「あぁ、あれね・・・・あぁでも言わないと、逃げられなかっただろ? 咄嗟の機転さ」
「あ、そ、そうなんだ」
その言葉を聞いてほっとした。
でも・・・・何故だろう、ちょっと残念にも感じている。
私、まさか・・・・。
「あ、あの、とにかくさっきはありがとう・・・・おかげで助かったわ。だから・・・・何かお礼をさせてくれないかしら?」
いつの間にか、私はそんな事を口走っていた。
自分でも気付かないほど自然に・・・・。
「い、いや、友人を助ける事は当然だしさ。そ、そんなに気にしなくて良いよ」
そう言う北川君の顔は赤い。
くすっ・・・・もしかして、照れてるのかしら?
何か、可愛いっ・・・・。
「北川君、親しき仲にも礼儀ありって言葉知ってる? だから私に何か出来る事があったら・・・・」
「いや、本当に気にしなくて良いから・・・・」
「う~ん・・・・・そう?」
本当は何かお礼とかしたいんだけど・・・・でも、あんまりしつこいのもあれだし・・・・。
まぁ、本人が良いって言ってるしなぁ。
あ、そうだ。
「北川君、ちょっとあっち向いて?」
「え、こうか?」
私の言った通り、素直に横を向く北川君。
私はその隙に北川君に近付き、
チュッ。
「あ・・・・」
かするように軽く頬にキスをした。
「これがお礼、よ」
そう言って、にっこりと北川君に笑顔を向ける。
当の北川君は、呆然とした感じで頬を手で押さえていた。
「それじゃ、私はそろそろ教室戻るね。いつまでもここに居るわけにもいかないし」
「え、あ、うん・・・・」
そんな私に曖昧な返事を返す北川君。
心なしか顔も赤くなってきている。
結構、純なのかな?
ふふ、可愛いっ。
「それじゃ、また後でね」
そう言って、私は軽くウィンクしながら屋上を後にした。
・・・・ちょっと、恥ずかしかったかな。
そう考えながら、ボッと顔が赤くなるのが分かった。
「うおおおおおぉぉぉぉ~~~~~!!!! あ、相沢~~~~~~~~~~!!!!!!!」
ビクッ!
な、何?
振り返ると、閉じた屋上の扉の外からその声は聞こえてきた。
今の・・・・北川君・・・・よね?
な、何で絶叫してるのかしら?(汗)
・・・・・あんまり深くは考えないでおきましょ。
何か、急に怖くなったから。
そう思いながら、私は教室へと戻った。
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン。
あ!
お昼食べ損ねた・・・・・。
念の為の検査と・・・・記憶喪失の事で。
「ふぅむ、外傷などの心配はないですね。骨にも異常は見当たらないし、ほぼ無傷ですよ」
病院の診察室で、椅子に座って診断を受ける。
良かった、特に怪我とかしてないみたい。
でも、砲丸が直撃したのに無傷だなんて・・・・私の頭、どうなってるんだろう?(汗)
「それと記憶の方ですが、これも症状としては割りと軽いものなので、その内自然に戻ると思います。現在の状態でも日常生活には特に問題はありませんから、しばらくは様子見と言ったところですね」
「そうですか・・・・良かった」
「まぁ、あまり深く考えずに今の生活をエンジョイする事ですよ」
そう言いながら、『はっはっは』と笑っていた医者。
何かアバウトな医者だったわね・・・・。
まぁ、とりあえず大した事なさそうでほっとしたわ。
でも・・・・出来れば早く記憶は戻ってほしいけど・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
『朝~、朝だよ~』
「え、な、名雪?」
突然耳元で聞こえた女の子の声に驚いて、私は飛び起きた。
いつの間にか二度寝してたみたい・・・・。
『朝ご飯食べて、学校行くよ~』
見ると、その声は枕もとの目覚まし時計から発せされていた。
そう言えば、昨日セットしておいたんだっけ。
とりあえず、手を伸ばして目覚ましのスイッチを切る。
それにしても・・・・何か更に眠気を誘うような目覚ましね。
・・・・今まで、よくこんな目覚ましで起きれてたものね。
「ふわぁぁぁ・・・・あふ・・・・」
口に手を当てて、思わず大きな欠伸をしてしまう。
とと・・・・ちょっとはしたなかったかな。
でも、しょうがないよね・・・・昨日、遅くまで起きてたんだもの。
昨日・・・・名雪とその母親で家主の秋子さん、居候のあゆと真琴に、そして何故か泊まって行く事になった香里(何か心配だからって言ってたけど)。
集まった皆に、一人一人ちゃんとした自己紹介と説明を受けてたもんだから、寝るのがすっかり遅くなっちゃったのよね。
まぁ、おかげでこの家の家族の事は全部分かったけど。
それにしても、この家って見事なまでに女所帯よね~。
無用心極まりない事この上ないわ。
ま、それはとりあえず置いといて・・・・そろそろ着替えないと。
ベッドから抜け出し、クローゼットから制服を取り出そうとした時、
『ジリリリリリリ!!』
『ピピピッ、ピピピッ』
『コケコッコー!』
『ダーリン、最高じゃん!!』
突然、鳴り響く多種多様の目覚ましの音。
何か、変な声も聞こえたんだけど・・・・あれも目覚ましなのかしら?
う~ん・・・・予め聞いてなかったら、何事かと思うわね・・・・。
そしてこれが、昨日聞いた私の朝の重要な役割か・・・・。
そんな事を考えながら、私は着替えを終えると自分の役割を果たすべく、名雪の部屋のドアノブに手をかけた。
「あぁもうっ。全速力よ!名雪、香里!!」
「けろぴーろけっと背中に背負ってるから問題なし、だお~!」
「・・・・まだ寝惚けてるの、あんたは」
「はあ、はあ・・・・ちょっと待って・・二人とも・・早い・・・・」
『それでは、明日はいつもより少し早く起きた方がいいかもしれませんね』
昨日、そんな風に忠告する秋子さんに従い、目覚ましにセットした時間を10分早めておいたのだけど・・・・。
・・・・正解だったわね。
秋子さんの予想は見事的中していしまい、名雪を起こすのに手間取った私たちは、朝の街を全速力で駆け抜けていた。
「目覚めが悪いとは聞いていたけど・・・・これはちょっと異常なんじゃない? 名雪」
「うにゅ・・・・でも私はいつもこんな感じだお~」
「・・・・昨日までの私を尊敬するわ」
「はあ・・・はあ・・・」
未だはっきりと目が覚めていない名雪を横目で見ながらも、スピードは落とさず走り続ける。
それでも多少は目が覚めてきたのか、さっきよりはペースが上がってきていた。
それとは正反対に、少しずつペースの落ちてきている香里。
こっちはもう限界みたいね・・・・。
「・・・・あ」
黙々と走り続け、しばらくしてから名雪が小さく声をあげる。
・・・・何となく予想がつくんだけど。
「どうしたの?」
「えっと・・・・もう、100メートル11秒フラットくらいで走らないと間に合わないよ」
「えぇっ!?」
名雪の一言に悲鳴を上げる香里。
まぁ、無理もないわね。
100メートル11秒フラットって言ったら、全国大会出れるぐらい早いわよ?
・・・・しかも、男子で。
でも、不思議と私は焦りを感じないけど。
「名雪はいける?」
「うん」
「・・・・香里は?」
「はあ・・・はあ・・・私を・・・・この娘と・・・一緒にしないで・・・・」
聞くまでもないって感じね・・・・。
仕方ないわね。
「それじゃあ、私は右手、名雪が左手。 良い?」
「うん!」
そう言って、名雪と二人で香里の両脇から腕を抱える。
・・・・傍から見ると、捕まった宇宙人みたいな格好だけど。
「ちょ、ちょっと・・・・あなたたち、まさか・・・・」
許して香里・・・・背に腹は変えられないのよ。
遅刻したくないし。
「準備良いわね? それじゃ・・・・加速装置!」
「加速装置、すたんばいおっけー!」
「「ごーっ!!」」
二人で香里を抱えたまま、再加速。
さっきまでのスピードなんで目じゃない。
これなら、間に合う・・・・!
「いやぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!」
・・・・そして通学路に響き渡る少女の悲鳴。
ごめんね、香里・・・・。
ちょっとの間だから辛抱してね。
結局、何とか学校には遅刻せずに済んだ。
「相沢さん、大丈夫?」
「記憶喪失なんて、ドラマの中だけだと思ってたけど…」
「大変なんでしょ? 大丈夫、私に出来ることない?」
お昼休み・・・・授業が終わった途端、私はクラスの女子に囲まれてしまった。
午前中は、ずっと起きてられなくて寝てたから何も言ってこなかったんだけど・・・・。
このままお昼休みも寝た振りしてれば良かったかしら?
溜息をつきながら、きゃいきゃいと私の周りに集まる女子達を眺める。
心配してくれるのは嬉しいんだけどね・・・・ちょっと、騒がしすぎない?
誰か、助けてくれそうな人は・・・・。
そう思って隣の名雪の方に視線を向ける。
「え~へ~へ~・・・・祐子ちゃ~ん・・・・いちごとくりーむのとっぴんぐで出来上がり~・・・・いっただきま~す・・・・」
まだ夢の中ね・・・・。
「・・・・祐子ちゃん、恥ずかしがっちゃって可愛いよ~」
・・・・一体、どんな夢見てるわけ?
これは後でしっかりと問い詰める必要がありそうね・・・・小一時間ほど。
ん~・・・・じゃ、香里は?
「ふ・・・・ふふふ・・・・ゼロの領域が・・・・未来が見える・・・・」
虚ろな瞳であらぬところ見つめて何かを呟いている香里。
ま、まだあっちに行ったままなのね。
逆に助けないと駄目かしら?(汗)
う~ん・・・・いっその事逃げちゃおうかな・・・・。
そんな事を考えていると不意に女子の垣根の後ろから、
「皆、ちょっと相沢の周りで騒ぎすぎだぞ。心配するのは分かるけど、少しはそっとしておいてやれよ」
そんな、男子の声が聞こえた。
それと同時に垣根の一部が割れ、一人の男の子の姿が現れる。
え~と・・・・朝来たとき軽く自己紹介したわよね。
後ろの席だからって・・・・確か・・・・。
「き、北河君・・・・だっけ?」
「・・・・何か微妙に違う気もするぞ」
そう言いながらも、北河(?)君は頷いた。
パッと見は・・・・割と格好良い部類に入るかな?
「そう言う北川君はどうなの? 記憶がないからって、これを機に相沢さんに近づこうとしてるんじゃないの?」
「ふっふっふ・・・・俺は良いのさ。なんたって、恋人だからな」
へ~、北河君って私の恋人なんだ・・・・って、えぇっ?!
「ちょっとちょっとちょっと!馬鹿な事言わないでよ、あんた無茶苦茶嫌われてたじゃない!!」
「ふっ・・・・あれは人前で相沢が照れていただけさ。俺達は密かに夜の街で逢瀬を重ねていたんだからな」
え、えぇ? ええぇぇぇ~~~??!!
「と言うわけだから・・・・行くぞ、相沢!」
「え?え?きゃっ!?」
突然、北河君は私の手を取ったかと思うと教室から逃げ出した。
「あ、こらぁっ!!北川、待てぇ~~~!!!」
後ろから女子の声が聞こえたけど、北河君は止まらずにそのまま廊下を駆け抜けた。
・・・・この手・・・・振り解こうと思えばいつでも出来る。
だけど、私は何故かそうしなかった。
どうして・・・・こんなにもドキドキしてるんだろう。
しばらくして・・・・私は、屋上に連れて来られていた。
凄い・・・・街が一望出来る。
思わずフェンスの傍に駆け寄り、その光景に見入ってしまった。
夕方とかに見たら、もっと綺麗だろうな・・・・。
「災難だったな、相沢」
「あ、う、うん・・・・」
何となく・・・・彼の顔がまともに見れない。
何故だろう・・・・さっきのドキドキもまだ収まってないし・・・・。
「さ、さっきはありがとうね、北河君」
「あ~・・・・念の為言っとくが、俺は北河じゃなくて北川だ」
「?」
「・・・・だから、字が違うって言ってんの」
「・・・・何で会話で字が違うなんて分かるの?」
「むぅ・・・・まぁ、それは・・・・秘密だ」
「何か納得いかないわね~」
「ま、気にするな・・・・しかし、今の相沢ってまるで純情可憐な女の子に見えるよな~」
「ちょっと・・・・それじゃあ、私がまるで純情可憐とは程遠いみたいに聞こえるわよ!」
「はは、いや悪い悪い。でも、ようやくいつもの相沢らしくなったな」
「あ・・・・」
さっきまでのドキドキはいつの間にかなくなっていて・・・・私はいつも通りに戻っていた。
不思議・・・・。
「それじゃあ、改めて自己紹介するな。俺は北川潤、人呼んで『不死身の潤』だ!宜しくな」
「くすっ、何よそれ。でもまぁ、宜しくね、北河君」
「だから、北川だって」
「あ・・・・あはは、ごめんね」
そう言って照れ笑いしながら、私は北川君と握手を交わした。
「あ、ところで・・・・」
「あん?何だ、相沢」
ようやく落ち着いたので、私はさっきからずっと気になっていた事を聞いてみる事にした。
「あのね・・・・その・・・・さっき教室で言った事、本当?」
「さっき?何が?」
「だ、だから・・・・私と北川君が、その・・・・恋人同士だって・・・・」
「あぁ、あれね・・・・あぁでも言わないと、逃げられなかっただろ? 咄嗟の機転さ」
「あ、そ、そうなんだ」
その言葉を聞いてほっとした。
でも・・・・何故だろう、ちょっと残念にも感じている。
私、まさか・・・・。
「あ、あの、とにかくさっきはありがとう・・・・おかげで助かったわ。だから・・・・何かお礼をさせてくれないかしら?」
いつの間にか、私はそんな事を口走っていた。
自分でも気付かないほど自然に・・・・。
「い、いや、友人を助ける事は当然だしさ。そ、そんなに気にしなくて良いよ」
そう言う北川君の顔は赤い。
くすっ・・・・もしかして、照れてるのかしら?
何か、可愛いっ・・・・。
「北川君、親しき仲にも礼儀ありって言葉知ってる? だから私に何か出来る事があったら・・・・」
「いや、本当に気にしなくて良いから・・・・」
「う~ん・・・・・そう?」
本当は何かお礼とかしたいんだけど・・・・でも、あんまりしつこいのもあれだし・・・・。
まぁ、本人が良いって言ってるしなぁ。
あ、そうだ。
「北川君、ちょっとあっち向いて?」
「え、こうか?」
私の言った通り、素直に横を向く北川君。
私はその隙に北川君に近付き、
チュッ。
「あ・・・・」
かするように軽く頬にキスをした。
「これがお礼、よ」
そう言って、にっこりと北川君に笑顔を向ける。
当の北川君は、呆然とした感じで頬を手で押さえていた。
「それじゃ、私はそろそろ教室戻るね。いつまでもここに居るわけにもいかないし」
「え、あ、うん・・・・」
そんな私に曖昧な返事を返す北川君。
心なしか顔も赤くなってきている。
結構、純なのかな?
ふふ、可愛いっ。
「それじゃ、また後でね」
そう言って、私は軽くウィンクしながら屋上を後にした。
・・・・ちょっと、恥ずかしかったかな。
そう考えながら、ボッと顔が赤くなるのが分かった。
「うおおおおおぉぉぉぉ~~~~~!!!! あ、相沢~~~~~~~~~~!!!!!!!」
ビクッ!
な、何?
振り返ると、閉じた屋上の扉の外からその声は聞こえてきた。
今の・・・・北川君・・・・よね?
な、何で絶叫してるのかしら?(汗)
・・・・・あんまり深くは考えないでおきましょ。
何か、急に怖くなったから。
そう思いながら、私は教室へと戻った。
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン。
あ!
お昼食べ損ねた・・・・・。
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