過去の遺作置き場
7月27日
それは、一本の電話から始まった。
それは、一本の電話から始まった。
「祐子さん、お電話ですよ」
夕食後、私がリビングでくつろいでいると秋子さんに呼ばれた。
私に電話なんて誰だろう?
珍しい事もあるものね、と思いながら受話器を取る。
「もしもし?」
『あはは~、祐子さんですか? 佐祐理ですよ~』
「佐祐理さん? 珍しいですね、電話だなんて」
珍しいどころか、初めてのような気さえするけど・・・・。
記憶を失う前は知らないけどね。
「それで、今日はどうしたんですか?」
『えぇ、それなんですけど・・・・祐子さん、29日から1週間ほどお暇はありますか?』
「29日から?」
近くにかけてあるカレンダーに目をやる。
う~ん、特に予定はないわね。
「空いてますけど?」
『それではですね、その日から舞と別荘へ行くんですけれど、一緒にどうですか?』
べ、別荘?!
さすが佐祐理さん、私達なんかとは格が違うわ・・・・。
でも、嬉しい申し出だけど私だけ行くのも・・・・。
『あ、もちろん名雪さん達もご一緒してくれれば良いですよー』
・・・・佐祐理さん、まるで私の心を見透かしたの如く言ってくるわね。
「え~と、ちょっと待ってください・・・・」
私は受話器に手を当てて、リビングの方に顔を出す。
幸い、名雪はまだ起きてるみたいね・・・・。
真琴とあゆも居るし、ちょうど良いわ。
「名雪、真琴、あゆ! ちょっと来て」
「うにゅ?」
「あうー、何なのよう祐子」
「うぐぅ・・・・ボク、今テレビ見てたのに・・・・」
何だかんだと言いながら、3人が集まってくる。
名雪・・・・起きてると思ってたら、やっぱり寝てたのね・・・・。
「今、佐祐理さんから電話があってね。29日から1週間ほど、別荘に遊びに行かないって言われてるんだけど・・・・行く?」
「別荘?! ボク、行ってみたい!」
「あうー、真琴も!」
「私もおっけーだおー」
全員大丈夫みたいね。
あ、でも名雪は部活があるんじゃ・・・・?
「そんなもの、サボってやるに決まってるおー」
そ、そう。
まぁ、せいぜいあの後輩にバレないようにね?
「もしもし? こっちは全員大丈夫みたいです」
『そうですか。それでは29日の朝にそちらへ迎えに行きますので待っていてくださいねー』
「分かりました」
『あ、それと海もありますから水着とか用意しておいた方が良いですよー』
「海?」
水着たって・・・・私持ってないわよ。
買いに行かないと駄目じゃない。
明日にでも行こうかな。
『それでは、楽しみにしててくださいねー』
そう言って、電話は切られた。
「ねぇ、なんか海があるらしいんだけど・・・・皆水着持ってる?」
「あうー、真琴水着なんて持ってない・・・・」
「うぐぅ・・・・小学校の時のスクール水着なら・・・・」
そんなもの着てどうするって言うのよ、あゆ。
名雪は?
「くー」
「いや『くー』じゃなくて、名雪起きて!」
「うにゅ・・・・おはようござます・・・・」
「・・・・まだ朝じゃないわよ」
「うにゅ? 祐子ちゃん、何?」
「だから、名雪は水着あるのかって」
「水着~・・・・買わないと駄目かも・・・・くー」
はぁ、まぁとにかく名雪も買う必要があるってわけね。
でも、どうしようか?
真琴はともかく、あゆなんかは水着買うお金なんて持ってないだろうし・・・・。
そして、何より私自身がお金ないし・・・・。
「了承」
「え?!」
突然の声に振り向くと、にこやかな笑みをたたえて立っている秋子さんが・・・・。
って秋子さん、私まだ何も言ってないんですけど・・・・。
「来週から海へ行くのでしょう? 水着代ぐらいは、私が出してあげますよ」
「え、でもそんな秋子さんに悪いですし・・・・」
「良いんです。前にも言いましたけど、祐子さんもたまには我侭言っても良いと思いますよ?」
「それじゃあ、悪いんですけど・・・・」
「えぇ、明日出かける前にお金渡しますね」
秋子さんには本当に申し訳ないけど、これで何とかなりそうかしら?
とりあえず、明日は駅前のデパートにでも行ってみないとね。
水着選びか・・・・。
ちょっと楽しみ・・・・かな?
「あれ? 名雪さんは?」
「え?」
あゆの言葉に気付いて辺りを見回すと、さっきまでそこに居たはずの名雪の姿がなかった。
・・・・部屋に戻って寝たのかしらね?
ま、良いわ。
名雪の部屋。
「くー・・・・祐子ちゃんにはハイレグとか似合いそうだおー・・・・」
いつの間にやら自分の部屋に戻ってベッドに潜り込んでいた名雪は、寝言でそんな事を呟いていたのだった。
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