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過去の遺作置き場
2024年04月25日 (Thu)
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2002年07月20日 (Sat)
急に目の前が光に包まれたかと思うと、俺はいつの間にかその場に尻餅をついていた。
俺、どうしたんだっけ?
確か周りの景色が歪んだと思ったら意識を失って・・・・。
それで気が付いたら目の前が明るくなって・・・・。

「どうして・・・・どうして夢の中から出てこれるの?!」

目の前には俺の方を見て驚いている刻美ちゃんがいる。
・・・・そう言えば、秋子さん達が居ない?!

「ちょっと!秋子さんと香里はどうしたのよ!?」
「・・・・あの二人なら今頃自分の夢の中で幸せな思いをしてるわ。それより、どうしてあなたは夢の中から出てこれるの?! 自力で私の作った夢から抜け出せる人間なんて・・・・」

そこまで言いかけて、刻美ちゃんがはっとする。

「それは・・・・!」

そう言って刻美ちゃんが指差したのは・・・・床に落ちた懐中時計だった。
普段はポケットに入れてあるのだが、今尻餅をついたときに落としたらしい。

「これ・・・・? いつからかは覚えてないけど、知らないうちに持ってたのよね」

俺は、そう言って懐中時計を手に取る。
相変わらず、その懐中時計からは不思議な感覚が感じられた。

「でもこの懐中時計がどうかしたの?」

そう言いながら、俺は懐中時計を開く。

「あ、駄目!開いたら・・・・っ!」
「え?」

途端にさっきのような光が辺りを包んだ。



しばらくして光が止み、目を開けると・・・・目の前には、夢で見たあの八つ首の龍が居た。
ただあの時と違うのは、確か青かった龍が今は真っ赤に変色している。
まるで怒りの色のような・・・・。

『グオォォォォーーーーーーー・・・・・・』

突然、その龍が咆哮を上げた。

『我は時之龍、時の流れ全て司るもの!我を使役する巫女の資格なきものの時間への干渉は許さぬ!!』

どうやらこの龍は怒っているらしい。
資格がどうとか・・・・何のことだ?

「あれは時之龍よ・・・・時間の流れの操作、及び監視を行っている・・・・」

刻美ちゃんが暗い声で話しかけてくる。

「そして、その懐中時計は時を操る力と夢を破る力を封じてあるの」

・・・・そうだったのか。
それで、俺は刻美ちゃんの作った夢の中に閉じ込められなかったんだな。

『グオォォォォーーーーーーー・・・・・・』

・・・・って、呑気に話してる場合じゃない。
時之龍の怒りがこの空間に異常きたし始めている。
まるで川の奔流の如くだ。


「駄目だわ!このままだと時之龍が暴走してしまう・・・・!」

そう言うと、暴れる時之龍に近づく刻美ちゃん。

「時之龍よ、落ち着いて! それ以上暴れたら夢の世界が・・・・!!」

『グオォォォォーーーーーーー・・・・・・』

しかし時之龍はそんな刻美ちゃんの言葉は耳に入っていない。

「きゃあっ!・・・・そんな、私の言葉を受け付けないなんて・・・・もうほとんど暴走しかかってる・・・・」
「ちょっと、大丈夫?!」

俺は刻美ちゃんに駆け寄った。

「駄目、私だけの力じゃ抑えきれない・・・・」
「時之龍が暴走すると何が起こるの?」
「・・・・暴走した時之龍は、私の作り出した夢の世界を全て破壊しつくすわ」
「それじゃ、現実世界に戻れるのね!」

俺は嬉しさで飛び上がった。
・・・・地面も無いような異空間で飛び上がるも何も無いが。

「何が嬉しいの! せっかく私があゆちゃんの為に作り出した世界が全部壊れてしまうのよ?!」
「・・・・良いじゃない。夢ならまた作れば良いんでしょ?」
「私が作る夢と現実とでどれだけの差があるって言うのよ?! 私の作る夢は現実と同じよ!だったら辛い毎日の現実より、楽しい日々を繰り返す夢の世界の方が良いじゃない!!」
「分かってないわね・・・・」
「え?」

俺は溜息を一つ吐くと、刻美ちゃんに向かって話しかける。

「毎日が辛いからって、楽しい日だけを何度も繰り返すのはただ逃げてるだけよ」
「そ、そんな事・・・・!」
「それに、楽しい日だけが何度も続いても面白くないわよ。辛い日があればこそ、楽しい日を楽しいと感じられるんだから」
「・・・・・・・・・」
「それともう一つ。あゆの願いはわざわざ夢で叶える必要なんかないわ」
「・・・・どう言う事?」
「何故なら・・・・あゆの夢は、今充分に叶ってるからよ」

そう言って、俺はウインクしてみせた。

そう・・・・あゆは今、水瀬家に預かられている。
そして、それはこれから先もずっと変わらない。
俺、名雪、秋子さん、真琴・・・・そしてあゆ。
俺達5人はすでに家族、だからいつまでもずっと一緒に居られる。



「さ、分かったらとりあえずここから逃げましょ。このままここに居たら、時之龍が夢を壊すのに巻き込まれちゃいそうだわ」

実際の所、どうやって逃げたら良いのかはわからないが・・・・多分刻美ちゃんが何とか出来るだろう。



「・・・・一つ聞いて良い?」
「何?」
「あなたの夢は・・・・何なの?」
「私の夢か・・・・あゆとそんなに変わらないかもね」
「そう・・・・」

それだけ言うと俯いて、何か考えている刻美ちゃん。

「・・・・それじゃ、その懐中時計貸して?」
「良いけどどうするの?」

そう言って俺は懐中時計を刻美ちゃんに手渡す。

「この懐中時計に封じられている力は、元々私の力を半分にしたもので・・・・これがあれば私は100%の力を出せる」

そう言いながら、刻美ちゃんは懐中時計を翳した。

「今から、あなたを含めた全員を現実世界に帰してあげる・・・・」
「ほんと?」
「えぇ・・・・」

そう言うと刻美ちゃんは懐中時計の蓋を開く。
途端に、あの光の渦が巻き起こった。



「・・・・あなたには色々教えられたわ。ありがとう・・・・」

刻美ちゃんのそんな声が聞こえたかと思うと、俺は意識を失った。



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