過去の遺作置き場
学校跡地の湖で泳いだり釣りをしたり、すっかり車の通らなくなった大通りをインラインスケートで思う存分滑ったり、誰も居ない映画館で貸し切り状態で映画を見たり、自分達で打ち上げ花火を上げて楽しんだり・・・・祐一達はこの自分達しか居ないこの世界を思う存分満喫していた。
そんなある日・・・・。
そんなある日・・・・。
キュッキュッキュッ。
水道の蛇口を捻る音が響く。
でも、どれだけ回しても水はまったく出てこない。
「ふぅ・・・・」
諦めてあたしは顔を上げた。
もしかしたらと思ったけど・・・・やっぱり水が来ているのは、名雪の家だけみたいね・・・・。
でも、どうして名雪の家だけに電気やガス、水道が・・・・。
「あ、香里さんだ。お~い、香里さ~ん」
「え?」
突然自分の名前を呼ばれてそちらの方を振り向くと、あゆちゃんと真琴ちゃんがスイカを抱えてこちらに向かって駆けてきていた。
「あゆちゃんと真琴ちゃん。どうしたの?」
「別にどうしたって訳じゃないけど、香里さんの姿が見えたから・・・・」
傍までやってくると、あゆちゃんはハァハァと息を切らしながらそう答えた。
「あう~、香里は今日はみんなと遊ばないの?」
同じように傍までやってきた真琴ちゃんが聞いてくる。
「えぇ、ちょっと気になる事があるから・・・・調べ物が終わればまた遊ぶわよ」
「ふ~ん・・・・」
「それじゃ、あたしはまだ調べたい事があるから行くわね」
それだけ言って、あたしはその場を離れようとする。
「うん、それじゃまた後でね、香里さん」
「あうーっ、あゆあゆ!早くみんなのところに行かないと、スイカが温かくなっちゃうわよ!!」
「うぐぅ・・・・ボクはあゆあゆじゃないってば、真琴・・・・」
「そんなことよりスイカ!」
真琴ちゃんにとっては、あゆちゃんの名前よりスイカの方が気になるみたいね。
何だか真琴ちゃんらしいわ。
「うぐぅ・・・・こうやって水で冷やせば大丈夫だよ」
キュキュッ、ジャーーーッ。
あゆちゃんが水道の蛇口を捻り、水を出してスイカを冷やしてる。
ちょっと待って・・・・さっき確かにその水道はまったく水が出なかったのに・・・・。
でも、今あゆちゃんが捻ったその水道は確かに水が出ている。
「あうー!冷たくて気持ち良いーっ」
「うぐぅ・・・・真琴、水かけるなんて酷いよ・・・・」
目の前で、あゆちゃんと真琴ちゃんは水道から勢いよく流れ出る水と戯れている。
・・・・・・・・・・。
「あゆちゃん・・・・この世界を・・・・どう思う?」
「どうって・・・・すっごく楽しいよ?」
こっちを見て、不思議そうにそう答えるあゆちゃん。
「それじゃ、みんなが待ってるからボク達もう行くね。じゃね~」
「あう~。香里、ばいばい」
そう言うと、二人は来たときと同じように駆けて行った。
この世界がどう言う世界なのか・・・・それはもう予想がついていた。
でも、今まで”誰のものなのか”と言うのがあたしには分からなかった。
あたしはさっきの水道に近づいて、もう一度蛇口を捻ってみる。
しかし、さっき私が捻った時と同じように、その蛇口から水は出てこなかった。
・・・・これではっきりしたわ。
この世界が”誰のものなのか”が・・・・。
そんな事を考えながら、あたしはその場に立ち尽くしていた・・・・。
その日の夜―――。
「あう・・・・・あうーーーーっ」
突然、真琴ちゃんが騒ぎ出した。
何の前触れもなく。
「わ、わ。真琴ったらどうしたの?」
「うぐぅ、真琴しっかりして」
「あ、あう・・・・何か変だよ・・・・変な感じがするよ・・・・」
そう言いながら、真琴ちゃんは体を小刻みに震わせていた。
まるで何かに怯えるかのように・・・・。
「・・・・・・・・祐子」
「え?あ、あぁ舞。どうしたの?」
牛丼屋を始めてから、滅多に水瀬家には顔を見せなくなった川澄先輩が突然姿を現した。
「・・・・祐子・・・・魔物みたいな気配がする・・・・」
「何ですって?!」
川澄先輩と相沢さんが小声で何かを話してる。
何か魔物って聞こえたような気がするけど・・・・。
「本当なの舞?」
「分からない・・・・気配がはっきりしない・・・・」
「・・・・とにかく、今日はこっちに泊まってきなさい。佐祐理さんも連れて来てるんでしょ?」
「あははーっ、ちゃんと居ますよー」
そう言って、倉田先輩が川澄先輩の後ろから顔を見せた。
「秋子さん、とにかくそういう事なので・・・・良いですか?」
「了承」
いつもと同じように1秒で出たわね・・・・。
その日、あたし達は怯える真琴をなだめながら床についた。
川澄先輩はまだ気になるって言って、眠らずに部屋の前に立ってる。
あたしも気になったけど・・・・眠気には勝てず、眠りについた・・・・。
そして次の日・・・・家に二人の姿は無かった・・・・。
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