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過去の遺作置き場
2024年04月19日 (Fri)
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2002年07月22日 (Mon)
「いよいよか・・・・何か緊張するな」

俺は待合室の部屋で一人そう呟いた。
今日は人生最大のイベントだ。
・・・・別に詳細は言わなくても分かるよな。

え?相手?
・・・・すぐに分かる。




「祐一さん。そろそろですよ」

そう言って、秋子さんが入ってきた。

「あ、はい。今行きます」

俺は秋子さんに向かって頷くと、椅子から立ち上がった。
さぁて、行くか!









白いチャペル。
その中の、ちょうど一番奥の真ん中に俺は立っている。
今は相手待ちだ。


やがて、正面の入り口から彼女が父親にエスコートされて入ってきた。
俺はまだ彼女の晴れ姿を見たことがなかったのでこれが初めてだ。

綺麗だ・・・・。

純白のウェディングドレスに身を包んで父親にエスコートされて歩いてきた彼女は、今まで見た中で一番綺麗だった。
やがて、彼女は俺の隣までやってくる。



「お待たせ、祐一」

そう言って、彼女は俺に微笑みかける。
誰が見ても幸せそうな笑みをその顔に浮かべていた。

「香里・・・・」

俺は、呟くように彼女の名前を呼んだ・・・・。









式は順調に進んでいた。
目の前の神父が俺達に向かって語りかける。

「夫、祐一よ。汝は生涯かけてこの女性を愛しぬく事を誓うか?」
「誓います」

俺ははっきりとした言葉で返す。
俺の返答に満足した神父は、今度は香里の方に向き直った。

「妻、香里よ。汝は生涯かけてこの男を愛しぬく事を誓うか?」
「・・・・・はい、誓いま「ちょっと待ったぁぁぁっっ!!!」な、何?!」

突然後ろから聞こえてきた大声に俺達は後ろを振り向く。
そこに居たのは・・・・。
入り口で仁王立ちする北川だった。


「俺は、この結婚式を断じて認めん!美坂に相応しいのは、相沢ではなくて俺だぁぁぁっっ!!!」

何やら熱く燃えている。
北川の奴・・・・今まで、てんで香里に相手にさてなかったのにまだ諦めてなかったのか。

「北川君、今の私はもう美坂じゃないわよ」
「じゃあ、香里っ!」
「気安く名前で呼ばないで」
「ぐっ・・・・じゃあ、何て呼べば良い?!」
「だから、呼ばないで」
「ぐあ」

北川撃沈。
中々酷いぞ、香里。


「と、とにかく俺はこの式をぶち壊すっ!」

う~む・・・・そろそろ止めないと、大変な事に・・・・って、ん?

「北川さん!やっと見つけました!!」

そう言いながら現れたのは・・・・栞か。
片手には1リットルタイプのバニラアイスを抱えている。

「デートの途中で居なくなったと思ったら、こんな所に居たんですね!」

栞・・・・お前は、デートの時でもそんなもの持ち歩いてるんかい。
溶けるぞ(そう言う、問題でもない)

「さ、お姉ちゃん達の邪魔しちゃ駄目ですよ。行きましょう」

そう言って、北川の首根っこを掴みずるずると引っ張っていく栞。
尻に敷かれてるな、北川。

「み、みさかぁ~~~~・・・・・!」

情けない声を上げながら、北川は引きずられていった。
何だかなぁ。

確か前に北川に何で香里じゃなくて栞にちょっかい出してるのか聞いたらこう答えたんだよな。

「ふ、決まっている。『将を射んと欲すればまず馬から射よ』と言う言葉があるだろう?」

なんて事を言ってたっけ。
・・・・馬までは上手く射れたようだが、そこまでだったな。



閑話休題。



「ん、オホン!式を再開しても宜しいかな?」

北川が居なくなったのを確認すると、神父は咳払いを一つしてそう言った。
俺と香里はその言葉に我に返り、正面に向き直る。

「さて、それではもう一度・・・・妻、香里よ。汝は生涯かけてこの男を愛しぬく事を誓うか?」
「・・・・・はい、誓います」

数秒の沈黙の後、香里はそう答えた。

「では、誓いの口づけを・・・・」

俺と香里はお互いの方に向き直る。
そしてそのまま顔を近づけていくと、ゆっくりと目を瞑りながらそっとキスを交わした。
香里とキスをするのはこれが初めてだった・・・・。

どちらからとも無く、ゆっくりと唇を離す。
目を開けて香里を見ると、赤くなって照れたような・・・・それでいて幸せな笑顔を浮かべていた。



「二人に祝福があらん事を・・・・!」

パチパチパチ・・・・・。

神父のその言葉と共に、式場の客達が立ち上がり一斉に俺達に向かって拍手を贈ってきた。
その中には、秋子さんや名雪、あゆ、真琴に天野、舞、佐祐理さん達の姿も見える。
最初、何だかんだ言っていた皆も俺達を祝福してくれている。
俺と香里はお互いに顔を見合わせるとクスリと笑った・・・・。
















「あー!パパ、何かビデオ見てる!!」
「ん?あぁ、お帰り菜織」

俺は声のした方を向くと、娘にそう声をかける。

「菜織にだけ?あたしには?」
「はいはい、香里もお帰り」

苦笑しながら、俺は自分の最愛の妻にそう言った。

「ねぇねぇ、パパー。何のビデオ見てたの~?」

菜織は、俺の膝の上に乗ってくると甘えるようにそう言ってくる。

「あぁ、昔のビデオをね・・・・見たいか?」
「うん、見たい!」

大げさなくらいに、縦に首を振る菜織。
う~ん・・・・やっぱ、自分の娘ながら可愛い・・・・。

「何のビデオなの?」

香里も気になるのか、身を乗り出して覗き込んでくる。

「あぁ、俺達にとってスタート地点となったとも言えるべき思い出のビデオさ」
「え?それって・・・・」

香里が何かを言い切る前に、俺はビデオを始動させる。
するとテレビの画面には、先程まで見ていた俺と香里の結婚式の模様が映し出されていた。

「わぁ!ママ、きれー・・・・」

そう言って、画面に映されている俺と香里に釘付けになる菜織。
ま、こんな姿見るの初めてだろうからな・・・・。

「やだ、こんなビデオあったの・・・・?」

恥ずかしいのか、少し赤くなる香里。

「佐祐理さんが撮ってたのをもらったんだ。中々良く撮れてるだろ」

俺は画面上の自分達を指差しながらそう答えた。



「良いなぁ、ママこんなに綺麗で・・・・ねぇ、パパ。わたしも大きくなったらママと同じぐらい綺麗になれる?」
「あぁ、なれるさ。それこそママなんかよりずっと綺麗になれるぞ」
「ほんと?!」
「ちょっと、それはあんまりじゃない?」
「そうか?」
「大丈夫だよ。わたし、ママと一緒に居る時はママを立ててあげるから」
「・・・・少し、複雑な気分だわ」
「ははは。それより、今日の夕飯は?」
「あぁ。久しぶりに奮発したから今日はご馳走よ」
「ほぉ」
「わーい、ご馳走ご馳走~♪」
「それじゃ、準備するから・・・・菜織、手伝ってくれる?」
「うん!」



今、この時間この一瞬の全てが幸せな時間。
俺は香里と一緒になって、ここまで幸せになれたんだ。
出来れば・・・・俺はこの幸せを死ぬまで守っていきたい。

俺は、ビデオに写された結婚式が終わると電源切り、二人を手伝う為にキッチンへと向かった・・・・・・・。




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