過去の遺作置き場
「それじゃあ、まずは自己紹介から始めましょうか」
一同をリビングに集めた秋子さんがそう言った。
今、リビングに居るのは俺、真琴先生、名雪、秋子さん、真琴、あゆの5人だ。
水瀬家勢ぞろいだな・・・・っていつもの事だが。
一同をリビングに集めた秋子さんがそう言った。
今、リビングに居るのは俺、真琴先生、名雪、秋子さん、真琴、あゆの5人だ。
水瀬家勢ぞろいだな・・・・っていつもの事だが。
「それじゃあ、私から言いますね。私は沢渡真琴って言います。この度、祐一君の学校に赴任してきました」
最初に真琴先生が口を開いて、自分の自己紹介を始める。
俺と名雪は、もう学校で聞いた事だな。
「祐一さんとはお知り合いなんですか?」
「えっとその、まぁ・・・・。と言っても、もうずっと昔のことですから・・・・」
そう言って真琴先生は「ねっ?」と俺の方に目配せしてきた。
俺は思わず反射的に頷く。
その瞬間、場の空気がいきなり重くなったような気がした。
・・・・何でだ?
「そっか・・・・それで、放課後の学校案内を・・・・」
何やら小声で呟く名雪。
小さい声なので、上手く聞き取れなかった。
「うぐぅ・・・・綺麗な人・・・・」
「あぅ~・・・・真琴だって真琴なのに・・・・」
そして、その名雪の横で何だかよく分からないことを口々に言ってるあゆと真琴。
何なんだ一体・・・・。
「うふふ、そうなんですか。分かりますよ、私も」
「あ、秋子さんも分かってくれるんだ。良かった~」
その間も、何やら談笑している秋子さんと真琴先生。
何を話してたんだろ?
「ところで先生はこれからお暇ですか?」
「え~っと・・・・そうですね、特に予定は何もないですけど」
「でしたら、せっかくですからお夕飯を食べていかれたらどうですか? これも何かの縁ですし」
ビシッ。
秋子さんのその一言に、名雪、真琴、あゆの3人が固まる。
それと同時に、さっきよりも更に空気が重くなったような気がした。
「え、でもそんな悪いですし・・・・」
「いえいえ、とんでもないですよ。それに食事は賑やかな方が楽しいですから♪」
「・・・・それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
は、はぅっ!
真琴先生のその言葉に、更に場の空気が重くなった。
最早、気のせいではない。
押しつぶされそうだ・・・・。
誰か、助けてくれ・・・・。
◆ ◆ ◆ ◆
「あ~、美味しかった。ねぇ、祐一君。秋子さんって料理上手なのね」
「は、はは・・・・そ、そうですね」
「?・・・・どうしたの、祐一君?」
「い、いえ、何でも・・・・」
俺はげっそりしながら、真琴先生に首を振った。
確かに秋子さんの料理は美味しい。
しかし・・・・俺は、その場の空気に押しつぶされそうで、とてもじゃないがまともに料理なんて食べられなかった。
何故か、名雪たちがず~っと真琴先生の方を睨んでたし。
こんなに疲れた食事は初めてだよ・・・・。
「皆さん、食後のお茶を持ってきましたよ」
そう言って、お盆に人数分の湯飲みを乗せて持ってくる秋子さん。
全員にお茶を配ると、自分も椅子に座ってお茶をすする。
「さっきの話の続きなんですけど・・・・先生は祐一さんとは旧知の仲なんですね?」
一口お茶を飲んだ後、秋子さんが真琴先生にそう言った。
「旧知の仲ってわけでは無いんですけど・・・・まぁ、一応知り合い・・・・かな?」
ちらちらと俺の方に視線を向けながら真琴先生が言う。
まあ、確かにほとんど面識もなかったし、まともに会話さえした事ない内に別れたから、ホントに顔見知り程度なんだけどな、お互いに。
実際、今日屋上で真琴先生から俺の事知ってるって事聞かなかったら、ずっと俺だけが一方的に知ってるんだと思ってたし。
そんな事を考えながら、秋子さんと楽しそうに話している真琴先生を眺めていると、ふとパチッと目が合わさった。
慌てて、俺と真琴先生は目を逸らす。
その瞬間、後ろから「う~」とか「あう~」とか「うぐぅ~」とか聞こえてきたような気がした。
・・・・無視だ無視。
それよりも俺は、さっきからずっと微笑んで俺と真琴先生を見ている秋子さんの方が気になる・・・・。
な、何か嫌な予感が・・・・。
「それじゃあ先生、今日は泊まっていかれたらどうですか? 祐一さんと積もる話もあるでしょうし」
「ブーッ!?」
いきなりの秋子さんのその言葉に、俺は飲んでいたお茶を思いっきり噴出した。
い、いきなり何てことを言い出すんですか、秋子さん・・・・。
「だ、大丈夫、祐一!?」
心配そうに声をかけてくる名雪に軽く手を上げて応えてから、俺はもう一度視線を先生の方へと向け直す。
「え、で、でも急にそんな事言われても・・・・」
「そう遠慮なさらずに。うちなら全然平気ですから」
いつものように片手を頬に当てながらのたまう秋子さん。
いや、確かに家自体は平気かもしれないけど、俺の後ろにいる3人娘が平気じゃないと思うんだが・・・・。
実際、後ろから物凄いプレッシャー受けてるし・・・・。
・・・・今はとてもじゃないけど、振り向けないな。
先生は・・・・一応断ろうとしてたみたいだな。
でも、こういう時の秋子さんの誘いを振り切るのは普通の人間にはできないからな。
多分、結局は泊まる事になるだろう。
・・・・果たして、俺は無事に朝日を拝めるのだろうか?
◆ ◆ ◆ ◆
「それじゃあ、先生はこの部屋を使ってくださいね」
そう言って先生が秋子さんに案内された部屋には、まるで今まで誰かが住んでいたかの如く一通りの家具が揃っていた。
箪笥やテーブルの他に、ベッドなども置いてある。
何で誰も使ってない部屋にこんなに家具が・・・・?
「こう言うこともあろうかと、と言うことですよ祐一さん」
俺が疑問に思っていると、その疑問を見透かしたかのように秋子さんが答える。
・・・・こう言う事って、どう言うことだろうな?
あんまり深くは考えないでおこう・・・・。
「それじゃあ、祐一さんと先生はこの部屋で思う存分話してくださいね? ほら、名雪達は部屋に戻りなさい」
「う~、でも祐一を先生と二人きりになんて出来ないよ~」
「そ、そうよ! 祐一の事だから誰も居なくなった後に狼になるに違いないわ!」
「うぐぅ・・・・祐一君、外道だよ・・・・」
三人娘は、それぞれに好き勝手な事を言ってくれる。
つーか、お前ら俺の事をそう言う目で見てたのかよ。
「あらあら駄目よ、祐一さん達の邪魔をしたりしたら」
「う~・・・・でもでも」
「真琴は、絶対に二人きりなんて許さないんだから!」
「うぐぅ、ボクも祐一君と二人で夜を明かしたいよ」
秋子さんが説得しても、部屋に戻ろうとしない面々。
って、あゆ。
お前だけ、何かずれてないか?
「しょうがないわねぇ・・・・あなた達、言う事を聞かないのなら・・・・」
そう言って、秋子さんは懐に手を・・・・って、まさか。
「うにゅ?!」
「あう?!」
「うぐ?!」
そう思った瞬間、3人は謎の口癖を残して一斉にその場から消え去った。
それこそ、神風の如く。
微笑む秋子さんの手には、おそらく『アレ』が握られている事だろう。
「これで邪魔者は居なくなりましたね。それでは祐一さん、ごゆっくりどうぞ」
それだけ言うと、秋子さんは扉を閉めて出て行った。
「ねぇ、祐一君・・・・今、何があったの?」
「・・・・聞かないでください」
はっきり言って、あのジャムの事は思い出したくない。
先生も知らない方が良いだろうし。
「そ、それよりせっかく秋子さんが気を聞かせてくれたんですから、昔の話でもしましょう!」
「え? そ、そうね。そうしましょ」
そう言うと、俺達は腰を下ろした。
さて、そんなわけで二人きりになったが・・・・。
積もる話と言われてもなぁ・・・・俺と真琴先生は、ほんの顔見知り程度ぐらいだったわけだし、何を話せば良いのやら・・・・。
それに・・・・。
「・・・・・ん? 祐一君どうかした?」
「い、いえ・・・・別に・・・・」
そう言って笑顔を向ける真琴先生は、昔俺が憧れていた女性そのまま・・・・。
そんな女性(ひと) と、今この部屋に二人っきり・・・・はっきり言って、意識しない方が嘘だろう。
「ところで祐一君」
「は、はい!何ですか?」
いきなり声をかけられて、思わす声が上ずってしまった。
「・・・・何、話そうか?」
「へ?」
「だって昔の話って言っても、お互いそんなに交流があったわけじゃないし、何話して良いか思い浮かばないのよね」
・・・・どうやら、真琴先生も俺と同じだったらしい。
でもまぁ、秋子さんに言われたからって無理に昔話する必要はないわけだし・・・・。
「じゃあ、良かったら今まで真琴先生がどうしてたか話してくれませんか? 俺、ちょっと興味あるし」
「私の事? 良いけど、ちょっと恥ずかしいなぁ」
「良いじゃないですか。それが終わったら俺の事も話しますから」
「ふふ、お互いに聞かせ合おうってわけね? 良いわよ、じゃあ私の方から話してあげる」
そう言って一呼吸置くと、真琴先生は高校時代の話やこっちに来るちょっと前の事なんかを話し始めてくれた。
そして、真琴先生と一つ屋根の下で過ごす夜は更けて行く・・・・。
・・・・いくつか話をして11時ごろになった頃、俺は自分の部屋へと戻った。
◆ ◆ ◆ ◆
時はちょっと遡り―――。
「二人とも~、これはゆうりょすべきじたいだお~」
名雪さんが、目を線にしながらそう言った。
そう言えば、いつもなら名雪さんはもう寝てる時間・・・・。
寝ぼけるのもしょうがないよね。
でも、平仮名で喋るのは止めようよ・・・・。
「あう~、同じ真琴でも真琴の方が若さは上なのに~!」
うぐぅ・・・・真琴、その言い方ちょっとややこしいよ。
せめて自分の事を『私』とか言ってくれると分かりやすいのに・・・・。
何度言っても、直らないんだよね。
「うにゅ~・・・・とにかく、せんせーのへやにとつにゅうしないことにははなしにならないお~」
だから名雪さん、喋りが平仮名・・・・。
うぐぅ・・・・寝ぼけた名雪さんに、何を言っても無駄かなぁ。
「それじゃ、とりあえず再突入よっ! 祐一の貞操だけは絶対に守るんだから!」
真琴・・・・それは何か違う気がするよ・・・・。
でも、祐一君とあの先生を二人きりにしておけないのも事実だし・・・・。
「うぐぅ・・・・分かったよ。じゃあ、皆でとつにゅうだねっ」
「そうと決まれば善は急げだお~」
「あうー、待ってなさいよ祐一!」
そう言って、意気込んだボクたちは勢いよく名雪さんの部屋を開けて外に出ようとした
「あらあら、皆でどこに行くのかしら?」
「う、うぐぅ?!」
「あうーっ?!」
「・・・・うにゅ?」
何故か知らないけど、ボク達が部屋を出たらそこには秋子さんが立っていた。
も、もしかして全部先読みされて待ち伏せされたの?
「もしかして、またお二人の邪魔をしようとか考えてたのかしら?」
「う、うぐ!」
「あう・・・・」
「・・・・だおー」
そう言って、秋子さんは懐にあるものに手をかけた。
こ、ここは逃げないと・・・・!
「駄目ですよ。逃がすとまた繰り返しそうですから・・・・とりあえず、眠ってくださいね」
「う、うぐぅぅぅぅ~~~~~~!!!???」
「あうーーーーーーーっっ!!!???」
「だおぉぉぉ~~~~~~!!!???」
秋子さんのジャムを無理矢理口にねじ込まれて、ボクたちは三者三様の悲鳴を上げた。
うぐぅ・・・・意識が・・・・遠くなっていく・・・・。
そして、ボク達は”強制的”に眠らされた・・・・。
うぐぅ・・・・祐一く~~ん!
最初に真琴先生が口を開いて、自分の自己紹介を始める。
俺と名雪は、もう学校で聞いた事だな。
「祐一さんとはお知り合いなんですか?」
「えっとその、まぁ・・・・。と言っても、もうずっと昔のことですから・・・・」
そう言って真琴先生は「ねっ?」と俺の方に目配せしてきた。
俺は思わず反射的に頷く。
その瞬間、場の空気がいきなり重くなったような気がした。
・・・・何でだ?
「そっか・・・・それで、放課後の学校案内を・・・・」
何やら小声で呟く名雪。
小さい声なので、上手く聞き取れなかった。
「うぐぅ・・・・綺麗な人・・・・」
「あぅ~・・・・真琴だって真琴なのに・・・・」
そして、その名雪の横で何だかよく分からないことを口々に言ってるあゆと真琴。
何なんだ一体・・・・。
「うふふ、そうなんですか。分かりますよ、私も」
「あ、秋子さんも分かってくれるんだ。良かった~」
その間も、何やら談笑している秋子さんと真琴先生。
何を話してたんだろ?
「ところで先生はこれからお暇ですか?」
「え~っと・・・・そうですね、特に予定は何もないですけど」
「でしたら、せっかくですからお夕飯を食べていかれたらどうですか? これも何かの縁ですし」
ビシッ。
秋子さんのその一言に、名雪、真琴、あゆの3人が固まる。
それと同時に、さっきよりも更に空気が重くなったような気がした。
「え、でもそんな悪いですし・・・・」
「いえいえ、とんでもないですよ。それに食事は賑やかな方が楽しいですから♪」
「・・・・それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
は、はぅっ!
真琴先生のその言葉に、更に場の空気が重くなった。
最早、気のせいではない。
押しつぶされそうだ・・・・。
誰か、助けてくれ・・・・。
◆ ◆ ◆ ◆
「あ~、美味しかった。ねぇ、祐一君。秋子さんって料理上手なのね」
「は、はは・・・・そ、そうですね」
「?・・・・どうしたの、祐一君?」
「い、いえ、何でも・・・・」
俺はげっそりしながら、真琴先生に首を振った。
確かに秋子さんの料理は美味しい。
しかし・・・・俺は、その場の空気に押しつぶされそうで、とてもじゃないがまともに料理なんて食べられなかった。
何故か、名雪たちがず~っと真琴先生の方を睨んでたし。
こんなに疲れた食事は初めてだよ・・・・。
「皆さん、食後のお茶を持ってきましたよ」
そう言って、お盆に人数分の湯飲みを乗せて持ってくる秋子さん。
全員にお茶を配ると、自分も椅子に座ってお茶をすする。
「さっきの話の続きなんですけど・・・・先生は祐一さんとは旧知の仲なんですね?」
一口お茶を飲んだ後、秋子さんが真琴先生にそう言った。
「旧知の仲ってわけでは無いんですけど・・・・まぁ、一応知り合い・・・・かな?」
ちらちらと俺の方に視線を向けながら真琴先生が言う。
まあ、確かにほとんど面識もなかったし、まともに会話さえした事ない内に別れたから、ホントに顔見知り程度なんだけどな、お互いに。
実際、今日屋上で真琴先生から俺の事知ってるって事聞かなかったら、ずっと俺だけが一方的に知ってるんだと思ってたし。
そんな事を考えながら、秋子さんと楽しそうに話している真琴先生を眺めていると、ふとパチッと目が合わさった。
慌てて、俺と真琴先生は目を逸らす。
その瞬間、後ろから「う~」とか「あう~」とか「うぐぅ~」とか聞こえてきたような気がした。
・・・・無視だ無視。
それよりも俺は、さっきからずっと微笑んで俺と真琴先生を見ている秋子さんの方が気になる・・・・。
な、何か嫌な予感が・・・・。
「それじゃあ先生、今日は泊まっていかれたらどうですか? 祐一さんと積もる話もあるでしょうし」
「ブーッ!?」
いきなりの秋子さんのその言葉に、俺は飲んでいたお茶を思いっきり噴出した。
い、いきなり何てことを言い出すんですか、秋子さん・・・・。
「だ、大丈夫、祐一!?」
心配そうに声をかけてくる名雪に軽く手を上げて応えてから、俺はもう一度視線を先生の方へと向け直す。
「え、で、でも急にそんな事言われても・・・・」
「そう遠慮なさらずに。うちなら全然平気ですから」
いつものように片手を頬に当てながらのたまう秋子さん。
いや、確かに家自体は平気かもしれないけど、俺の後ろにいる3人娘が平気じゃないと思うんだが・・・・。
実際、後ろから物凄いプレッシャー受けてるし・・・・。
・・・・今はとてもじゃないけど、振り向けないな。
先生は・・・・一応断ろうとしてたみたいだな。
でも、こういう時の秋子さんの誘いを振り切るのは普通の人間にはできないからな。
多分、結局は泊まる事になるだろう。
・・・・果たして、俺は無事に朝日を拝めるのだろうか?
◆ ◆ ◆ ◆
「それじゃあ、先生はこの部屋を使ってくださいね」
そう言って先生が秋子さんに案内された部屋には、まるで今まで誰かが住んでいたかの如く一通りの家具が揃っていた。
箪笥やテーブルの他に、ベッドなども置いてある。
何で誰も使ってない部屋にこんなに家具が・・・・?
「こう言うこともあろうかと、と言うことですよ祐一さん」
俺が疑問に思っていると、その疑問を見透かしたかのように秋子さんが答える。
・・・・こう言う事って、どう言うことだろうな?
あんまり深くは考えないでおこう・・・・。
「それじゃあ、祐一さんと先生はこの部屋で思う存分話してくださいね? ほら、名雪達は部屋に戻りなさい」
「う~、でも祐一を先生と二人きりになんて出来ないよ~」
「そ、そうよ! 祐一の事だから誰も居なくなった後に狼になるに違いないわ!」
「うぐぅ・・・・祐一君、外道だよ・・・・」
三人娘は、それぞれに好き勝手な事を言ってくれる。
つーか、お前ら俺の事をそう言う目で見てたのかよ。
「あらあら駄目よ、祐一さん達の邪魔をしたりしたら」
「う~・・・・でもでも」
「真琴は、絶対に二人きりなんて許さないんだから!」
「うぐぅ、ボクも祐一君と二人で夜を明かしたいよ」
秋子さんが説得しても、部屋に戻ろうとしない面々。
って、あゆ。
お前だけ、何かずれてないか?
「しょうがないわねぇ・・・・あなた達、言う事を聞かないのなら・・・・」
そう言って、秋子さんは懐に手を・・・・って、まさか。
「うにゅ?!」
「あう?!」
「うぐ?!」
そう思った瞬間、3人は謎の口癖を残して一斉にその場から消え去った。
それこそ、神風の如く。
微笑む秋子さんの手には、おそらく『アレ』が握られている事だろう。
「これで邪魔者は居なくなりましたね。それでは祐一さん、ごゆっくりどうぞ」
それだけ言うと、秋子さんは扉を閉めて出て行った。
「ねぇ、祐一君・・・・今、何があったの?」
「・・・・聞かないでください」
はっきり言って、あのジャムの事は思い出したくない。
先生も知らない方が良いだろうし。
「そ、それよりせっかく秋子さんが気を聞かせてくれたんですから、昔の話でもしましょう!」
「え? そ、そうね。そうしましょ」
そう言うと、俺達は腰を下ろした。
さて、そんなわけで二人きりになったが・・・・。
積もる話と言われてもなぁ・・・・俺と真琴先生は、ほんの顔見知り程度ぐらいだったわけだし、何を話せば良いのやら・・・・。
それに・・・・。
「・・・・・ん? 祐一君どうかした?」
「い、いえ・・・・別に・・・・」
そう言って笑顔を向ける真琴先生は、昔俺が憧れていた女性そのまま・・・・。
そんな女性(ひと) と、今この部屋に二人っきり・・・・はっきり言って、意識しない方が嘘だろう。
「ところで祐一君」
「は、はい!何ですか?」
いきなり声をかけられて、思わす声が上ずってしまった。
「・・・・何、話そうか?」
「へ?」
「だって昔の話って言っても、お互いそんなに交流があったわけじゃないし、何話して良いか思い浮かばないのよね」
・・・・どうやら、真琴先生も俺と同じだったらしい。
でもまぁ、秋子さんに言われたからって無理に昔話する必要はないわけだし・・・・。
「じゃあ、良かったら今まで真琴先生がどうしてたか話してくれませんか? 俺、ちょっと興味あるし」
「私の事? 良いけど、ちょっと恥ずかしいなぁ」
「良いじゃないですか。それが終わったら俺の事も話しますから」
「ふふ、お互いに聞かせ合おうってわけね? 良いわよ、じゃあ私の方から話してあげる」
そう言って一呼吸置くと、真琴先生は高校時代の話やこっちに来るちょっと前の事なんかを話し始めてくれた。
そして、真琴先生と一つ屋根の下で過ごす夜は更けて行く・・・・。
・・・・いくつか話をして11時ごろになった頃、俺は自分の部屋へと戻った。
◆ ◆ ◆ ◆
時はちょっと遡り―――。
「二人とも~、これはゆうりょすべきじたいだお~」
名雪さんが、目を線にしながらそう言った。
そう言えば、いつもなら名雪さんはもう寝てる時間・・・・。
寝ぼけるのもしょうがないよね。
でも、平仮名で喋るのは止めようよ・・・・。
「あう~、同じ真琴でも真琴の方が若さは上なのに~!」
うぐぅ・・・・真琴、その言い方ちょっとややこしいよ。
せめて自分の事を『私』とか言ってくれると分かりやすいのに・・・・。
何度言っても、直らないんだよね。
「うにゅ~・・・・とにかく、せんせーのへやにとつにゅうしないことにははなしにならないお~」
だから名雪さん、喋りが平仮名・・・・。
うぐぅ・・・・寝ぼけた名雪さんに、何を言っても無駄かなぁ。
「それじゃ、とりあえず再突入よっ! 祐一の貞操だけは絶対に守るんだから!」
真琴・・・・それは何か違う気がするよ・・・・。
でも、祐一君とあの先生を二人きりにしておけないのも事実だし・・・・。
「うぐぅ・・・・分かったよ。じゃあ、皆でとつにゅうだねっ」
「そうと決まれば善は急げだお~」
「あうー、待ってなさいよ祐一!」
そう言って、意気込んだボクたちは勢いよく名雪さんの部屋を開けて外に出ようとした
「あらあら、皆でどこに行くのかしら?」
「う、うぐぅ?!」
「あうーっ?!」
「・・・・うにゅ?」
何故か知らないけど、ボク達が部屋を出たらそこには秋子さんが立っていた。
も、もしかして全部先読みされて待ち伏せされたの?
「もしかして、またお二人の邪魔をしようとか考えてたのかしら?」
「う、うぐ!」
「あう・・・・」
「・・・・だおー」
そう言って、秋子さんは懐にあるものに手をかけた。
こ、ここは逃げないと・・・・!
「駄目ですよ。逃がすとまた繰り返しそうですから・・・・とりあえず、眠ってくださいね」
「う、うぐぅぅぅぅ~~~~~~!!!???」
「あうーーーーーーーっっ!!!???」
「だおぉぉぉ~~~~~~!!!???」
秋子さんのジャムを無理矢理口にねじ込まれて、ボクたちは三者三様の悲鳴を上げた。
うぐぅ・・・・意識が・・・・遠くなっていく・・・・。
そして、ボク達は”強制的”に眠らされた・・・・。
うぐぅ・・・・祐一く~~ん!
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