過去の遺作置き場
秋子さんの運転で、俺たちはあっという間に商店街のマッハ軒に辿り着いた。
・・・・・・・・。
もう俺、ジェットコースターなんか怖くないよ・・・・。
・・・・・・・・。
もう俺、ジェットコースターなんか怖くないよ・・・・。
「ここのはずなんですけど・・・・」
「・・・・閉まってるわね」
辺りの店は全て営業中だと言うのに、このマッハ軒だけは何故かシャッターが下りていた。
このままでは中に入れん。
「・・・・とにかく、全員で持ち上げてみましょう」
俺たちは全員でシャッターに手をかける。
「それじゃ、掛け声に合わせて一気に持ち上げるわよ?せーの・・・・」
香里の声に合わせて思い切りシャッター持ち上げる。
・・・・が。
ガララララ。
「「「「「きゃぁっ(おわっ)」」」」」
どうやら下りてただけで鍵はかかってなかったらしい。
予想に反して簡単にシャッターが持ち上がってしまった為、勢い余って倒れてしまった。
「痛いです~・・・・」
「うぐぅ・・・・真琴、重いよ早くどいて・・・・」
「・・・・ぽんぽこタヌキさん」
「あらあら♪」
いや、秋子さんあらあらしてる場合じゃなくて・・・・。
とりあえず、起き上がろう。
立ち上がり、俺は店の中を見回す。
その中はあちこちに蜘蛛の巣が張っていて、とてもじゃないが営業していたようには見えない。
「ひどい有様ね・・・・」
「長い間ほったらかしになってましたから~」
そう言いながら、佐祐理さんは壁にかかったメニューの板をどかすと、その後ろから現れたボタンを押した。
ガコン・・・・ウィィィィン・・・・。
鈍い音と共に床が沈み始める。
・・・・なるほど、こう言う仕掛けなわけか。
・・・・ィィィィィン、ガコン。
再び鈍い音がすると同時に床が止まる。
そして、そこには佐祐理さんの言っていた通り、ハリアーが一台置いてあった。
佐祐理さんは、素早くハリアーの操縦席に乗り込む。
「もしも~し、倉田邸聞こえますか~、佐祐理ですよ~」
どうやら通信をしているみたいだな。
『はいぃ、こちらシャンシャン邸~。ご注文されたラーメン、確かに届けさしたからぁ』
「・・・・・・・」
・・・・・・・・。
「あら~?混戦しているようですねぇ」
・・・・何で混戦してラーメン屋に繋がるんだ?
ラーメン屋が無線で出前受けてるとは思えんのだが・・・・。
「しょうがありませんねぇ。とりあえず、秋子さんは乗ってください。他の皆さんはここで・・・・ってあら?」
いつの間にやら、秋子さんだけでなく俺たちもハリアーに乗り込んでいた。
いや、しがみついていたと言うべきか。
・・・・どう見ても定員オーバーだな。
「あの~、そんなに乗られると危ないですよ~?」
「ここまで来て、ただ待ってるなんて出来ませんよ」
「そうそう。こうなったら一蓮托生、呉越同舟だ」
「・・・・地獄の底まで付き合う」
下手すれば本当に地獄まで行きそうだがな。
「まぁ良いですけど、落っこちても佐祐理は知りませんよ~」
そう言いながら、佐祐理さんはエンジンを始動させる。
それと同時に天井が開き始めた。
「それじゃ行きますよ~。しっかり捕まっていてください」
ゴゴゴゴォォォォォッ・・・・。
轟音と共にハリアーが浮かび上がる。
ある程度の高度まで上がると、ハリアーは急加速した。
「「「「「「「「「きゃあぁぁぁぁっ(うわぁぁぁっ)!」」」」」」」」」
ぬぉぉぉぉっ!な、何つーGだ!
お、落ちてたまるか~!
ある程度の高度まで上ると、ハリアーは上昇しなくなった。
どうやら水平飛行に移ったらしい。
ふう、これで少しは余裕が出来るな。
・・・・かと言って、手を緩めると落ちそうになるが。
俺たちは、どんどん離れていく街の灯りを見つめる。
「綺麗・・・・」
栞の言うとおり、どんどん遠くなっていく街の灯りはとても綺麗だった。
「自分達の街を、こんな高い所から見たのなんて初めてね・・・・」
香里が感慨深げに呟いた。
「さらば~、わがまち~、たびだ~つ、ふね~は~」
・・・・・・・・。
北川・・・・ちょっとは周りの雰囲気を読め。
「あらあら北川さん、どうしてそんなに古い歌を知ってるんです?」
・・・・もう何も言うまい。
「ちょっと待って、みんな街の方を見て!」
突然の大声に、俺たちは再び街の方へ振り返る。
そこに見たものは・・・・。
「な、何だぁ?!」
「あ、あれ・・・・何・・・・?」
「・・・・亀?」
俺たちの目に映ったもの・・・・それは、円形になった街が石で出来た巨大な亀の上に乗せられ宇宙空間を飛んでいる姿だった。
「そ、そんな・・・・そんな事って・・・・」
「・・・・信じられないよ」
「・・・・佐祐理さん、街の外周に沿って旋回してもらえます?」
「ふえ?良いですけど・・・・」
秋子さんに言われ、佐祐理さんはハリアーを旋回させた。
「皆さん、あれを見てください」
「え?・・・・あ、あれって石橋?」
そこには巨大な石像となった石橋が、街を支えるようにして立っていた。
そして、その向こうには斉藤や久瀬の石像の姿も見える。
「・・・・最近、姿を見ないと思ったらこんな所に居たのね」
俺がそう呟いた瞬間、
プスンプスン・・・・。
突然、ハリアーがぐらついた。
「な、何?何なの?」
「ふぇ?ガス欠?・・・・おかしいですね~、まだ数分も飛んでないのに・・・・」
「しょうがありませんね、戻りましょう」
「え、秋子さん、戻るってあの街にですか?」
俺は思わず秋子さんに聞き返した。
「だって他に行く宛もないでしょう?それとも、あの斉藤さん・・・だったかしら?あの人の頭の上にでも降ろします?」
「・・・・街で良いです」
いくらなんでも、あんなところに降ろされたらたまったもんじゃない。
しばらくして、ハリアーは街に戻ってきた。
しかし、もう完全に燃料が切れている。
「ふぇ~、マッハ軒まで持ちません~。手近なところに強行着陸しますからしっかり掴まっててください~」
佐祐理さんがそう言うと同時に、ハリアーは急激に高度を下げていった。
この辺の景色、見覚えがある。
このまま降りると確か・・・・。
ヒィィィィィィィン・・・・・・・ドドゥッ!
大きな轟音と共に、ハリアーが着陸した。
俺たちは、ハリアーから降りると辺りを見回す。
「・・・・どうやら、わざわざ家に帰る必要はないみたいね」
そこは・・・・水瀬家だった。
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